『べらぼう』でも描かれる“米騒動” 現実とリンクする江戸時代の米価高騰を考える
その後も、まるで「悪の権化」のように扱われていた意次だったが、実際のところ、この時代に起きた米価の高騰は田沼時代の失政というよりは、未曾有の災害が運悪く重なったことが大きいと言われている。それでも、囲い米、現世でいう“備蓄米”の放出などの施策も不発に終わったなかで、市民の不満を抑えるために考案されたのが、株仲間の一時廃止だった。
株仲間とは、同業者で結成された幕府公認の組合のことで、市場を独占することによって過当な競争を防止して、業者の利益確保のために設けられた制度。『べらぼう』では、第26回「三人の女」で交わされた蔦重との会話から着想を経た意知の提案で、一時的な株仲間の廃止が決定した。しかし、幕府から出された米穀売買勝手令の効果も薄く、現場を好転させるには至らない。
その後、史実における株仲間の解散が断行されるのは、老中・水野忠邦による“天保の改革”の時期になってのことだ。株仲間こそ物価高騰の元凶だと信じて疑わなかった忠邦は、これまで仲間内で独占していた米の流通を解放して、新規業者の自由参入を可能にすることを狙いとしてこれを実行した。
つまりこれから蔦重が本屋として成り上がっていく時代において、物価の高騰が収まることはない。さらには、意次亡きあとに老中を務めた松平定信(井上祐貴)による“寛政の改革”によって、蔦重が作った出版物らは、風紀や秩序を乱すことを理由に厳しい弾圧や取り締まりを受けることになる。まさに逆風が吹き荒れるなかを、“耕書堂”という船は進んでいかなければならないのだ。
『べらぼう』で描かれている米騒動は、前年の冷夏の影響による米の不作に加えて、畳みかけるように起こった浅間山の大噴火の影響が大きく、令和とは少し事情が異なる。ただ、誰もが凶報だと疑わなかった浅間山の大噴火でさえ「こりゃあ恵みの灰だろう」と蔦重は呟き、市中の本屋に仲間入りする足掛かりにしてみせた。我々も蔦重のポジティブ思考を見習いつつ、彼のように機転を効かせながら“令和の米騒動”を乗り切りたいところだ。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送/翌週土曜13:05~再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00~放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15~放送/毎週日曜18:00~再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK