その上で改めてはっきりとさせておきたいことは、そもそも福田作品が大きく爆発する作品の特徴は「何をやっても許される原作マンガとキャラクター」であるということだ。

　それゆえに、福田組の代表作は『銀魂』と『勇者ヨシヒコ』でもあるのだ。『銀魂』はご存知の通り原作ではもとより「正調パロディ」全開であり、アニメ『銀魂』においてもメタ的な「セルフパロディ」もやりたい放題であるという地盤がすでに存在していた。

　また福田雄一脚本のオリジナルドラマである『勇者ヨシヒコ』も、設定がそもそも『ドラゴンクエスト』のパロディであり、当然オリジナルであるゆえに原作ファンからの否定的な意見などが来るはずもないのだ。もはや、無茶苦茶にするという行為それ自体が原作に忠実な行為になるという作品においては、観客も「パロディ」や俳優によるアドリブ、アクシデントにみえるライブ感を用いた独特な間・空気などを色眼鏡なしで楽しめる。そういったギャグ漫画、コメディの中では、福田雄一の「純粋パロディ」と「セルフパロディ」をふんだんに用いたコメディセンスは最も爆発するのだ。

　そして、こうした何をしてもいいノリや「パロディ」三昧の空気こそは『ケロロ軍曹』にも通ずるものがあると言えるだろう。しかしファンの期待、原作のノリが既に存在しており、おそらく20周年という流れに関係のない俳優の「セルフパロディ」的なギャグは、もちろん歓迎されていないということも明白である。

　もっとも『ケロロ軍曹』にも存在する声優ネタ、いわゆる「中の人ネタ」などのハイコンテクストを兼ね備えつつ、わかる人がわかればいい程度の『ケロロ軍曹』らしい、アニメ・マンガを使った意味のある文脈で使われる「パロディ」といった“原作のルール”に則ったものに関しては、問題ないどころかむしろ期待されていることであろう。しかし、これまでさまざまな作品で培われた“福田節”なる伝家の宝刀が、やはり相性次第では、これまた積み上げられてきた『ケロロ軍曹』にとってノイズになってしまう可能性があり、そういった憂慮がファンの中に存在しているのだ。

　また、未知数だらけの現段階ではそうした懸念が起きてしまうのも、もっともなことだと思う。だが、今回の新作発表における福田自身のコメントを読んでみると「テレビ放送当時から大ファンで、当時はバラエティの構成作家をしていて、『ケロロ軍曹』を観ながら台本を書いていたのをよく覚えています」という箇所や「その奔放な作風が羨ましくて仕方ありませんでした」という箇所からも、そもそも福田は原作『ケロロ軍曹』への大きなリスペクトと自身が受けた影響を表明しているのだ（※）。それどころか、もはや現在、邦画界でも大きなシーンを築いている福田雄一の「パロディ」精神は、元はと言えば『ケロロ軍曹』の「パロディ」精神が種を蒔き、実を育て花を咲かせたものであるとも言えるかもしれないのだ。

　そんな『ケロロ軍曹』のアニメ20周年に総監督として携わることになった福田自身も、2005年に漫画原作の『THE3名様』でデビューし、映画監督としては今年で20周年を迎えている。さらに、『勇者ヨシヒコ』では一部アニメになる演出などがあるにはあったが、今回は初のアニメーション映画であるため、実写化にあたってむしろ今まで実現できなかった自由な表現やテンポを描き出すことができるのだ。

　以上のことから、今回の最新作は、『ケロロ軍曹』にとっても福田にとっても新たな挑戦であり、互いに20年という節目に立つ両者の「パロディ」というシナジーと化学反応により、やりたい放題で型破りの、予測不能な面白いものが生まれるということにも期待できるのはないだろうか。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/07/post-2076148.html

■公開情報
劇場版新作『ケロロ軍曹』
2026年6月公開
原作：吉崎観音
脚本・総監督：福田雄一
監督：追崎史敏
キャラクターデザイン：小池智史
制作：BN Pictures　
配給：KADOKAWA、バンダイナムコフィルムワークス
©吉崎観音／KADOKAWA・劇場版ケロロ軍曹製作委員会
公式サイト： https://www.bn-pictures.co.jp/keroro-anime/movie/
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