そんな戸田は、5月10日に放送された『情報7daysニュースキャスター』（TBS系）に出演。クルーズとの30年にわたる交流について語っていた。印象的だったのは、“スクリーンの外”でのクルーズのエピソードだ。多くのハリウッドスターが当然のようにエレベーターの奥へ真っ先に乗るなか、クルーズだけはドアを押さえ、全員が乗り終わってから最後に乗り込むという。さらに、デパート経由で届いた「御歳暮」と書かれたバスケットいっぱいのハムやグルメ食品の贈り物には「トム・クルーズ」と“のし”が添えられていたそうで、こうした“戸田だけが知るトムの素顔”はファンにとっては興味深いものばかり。

　ほかにも、互いの誕生日である7月3日の午前中には毎年クルーズからバラが贈られる、「意中の人にプロポーズするべきか」との相談を受けた、来日の予定が1日早まったトムから連絡が入り3時間お茶をした……といった多くの逸話も残されており、戸田とクルーズが仕事仲間を超えた関係であることが伺える。

　戸田が「通訳」としてクルーズのファンから賞賛を浴びたのは2015年に映画『ミッション：インポッシブル／ローグ・ネイション』のプロモーションで来日した時のこと。出演した『スッキリ!!』にて「トムに、靴を脱いで雪駄を履いてほしい」とのお願いがあった際、戸田は「トムは履かないわよ、こんなの〜（笑）」と一蹴。クルーズ本人が断れば悪者になってしまうところを、戸田がクッション役となってその場をやわらかく処理した。

　戸田の字幕に対するクルーズの信頼も絶大だ。今作の来日時にも「字幕に心血を注いでくださる」「私たちにとって絶対に必要な存在」と言い切っている。

　戸田といえば、作中で使われる固有名詞を意訳する“なっち語”が話題になるが、それは『ファイナル・レコニング』でも健在だった。今作の敵はAI＝エンティティ（Entity＝実在、存在、本質の意）。登場人物たちのセリフ（原語）や日本語吹替版でも「エンティティ」と明確に呼称されていたが、戸田の字幕版では一貫して「それ」と訳されていた。

　これが3時間近い上映中に何度も登場するため、一部の観客からは「誰のことを指しているのかわからなくなる」「イッツの『それ』と混同してしまう」との声もあがった。しかし、今作のラスボスは人間ではなくAI。おそらく戸田は“掴みどころのない敵の輪郭”をあえて強調しようとして「それ」と表現したのではないか。何よりも、戸田の訳には遊び心と解釈の妙がある。それがスター俳優たちに支持される理由なのかもしれない。

　世界を舞台にスパイアクションを繰り広げる『ミッション：インポッシブル』という壮大なシリーズは、スクリーンの裏側で紡がれた戸田奈津子とトム・クルーズの“見えない絆”の物語でもあるのだ。

参照
※1. https://www.cinematoday.jp/news/N0149002
※2. https://x.com/TomCruise/status/1927346598029217940
※3. https://missionimpossible.jp/news/2025/06/02/info65/
※4. https://www.yomiuri.co.jp/national/20250428-OYT1T50181/

■公開情報
『ミッション：インポッシブル／ファイナル・レコニング』
全国公開中
出演：トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、マリエラ・ガリガ、ヘンリー・ツェニー、ホルト・マッキャラニー、ジャネット・マクティア、ニック・オファーマン、ハンナ・ワディンガム、アンジェラ・バセット、シェー・ウィガム、グレッグ・ターザン・デイヴィス、チャールズ・パーネル、フレデリック・シュミット
監督：クリストファー・マッカリー
配給：東和ピクチャーズ
©2025 PARAMOUNT PICTURES.
公式サイト：missionimpossible.jp
公式X（旧Twitter）：@MImovie_jp
公式Instagram：@missionimpossiblejpn