それらと同時に描かれたのは、人のためと自分を犠牲にすることのバランスだ。利他と自己実現の調和とも言い換えられる。「米田家の呪い」として描かれてきたのは、無償の奉仕が苦しみを生み出すこと。永吉（松平健）の死は、誰かにしてあげたことが後で自分に返ってくること、報われることを強調したものだった。

　しかし、そのことは相手を信じるから成り立つものである。永吉は信念を貫いたものの、家族や周囲の人々は負担を強いられるし、現実に報われないことも多い。呪いが再生産されてしまう。これに対して、第109話では別の解答を提示した。花（宮崎莉里沙）がサッカーを頑張るのは、翔也（佐野勇斗）に喜んでもらいたいから。けれども、それは自分自身のためでもある。自分の「やりたい」が先にあって、それが結果的に誰かのためになる。犠牲や搾取を生まない関係性を模索していた。

　テーラーの要蔵（内場勝則）は商店街を離れることになった。NSTをNSCと間違えたあたりからやや心配だったが、老人ホームへ入所することになった。ドラマでも最後までボケ通し、出演者全員でズッコケる最高の送り出し方だった。吉本新喜劇の元座長らしく、ヘアサロンヨネダをコントの劇場に変えた内場の栄転は、本作が終わりに近いことを告げている。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、麻生久美子、北村有起哉
語り：リリー・フランキー
主題歌：B'z「イルミネーション」
脚本：根本ノンジ
制作統括：宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー：管原浩
写真提供＝NHK