坂口健太郎の真価は“戸惑いの表現”に表れる 『さよならのつづき』に刻んだ稀有な俳優像
坂口健太郎は稀有な俳優だ。彼は演じるキャラクターの持つ“生命力”を、自在に操ってしまっているように感じる。もちろんこれは、観客/視聴者のひとりである私の個人的な実感かもしれない。けれども同じように感じている人は少なくないのではないだろうか。そんな彼の特別な力が顕著に表れているのが、言わずもがな、Netflixで配信中の『さよならのつづき』(2024年)である。
本作は、有村架純と坂口がダブル主演を務めたラブストーリー。ざっくりとしたあらすじはこうだ。恋人である中町雄介(生田斗真)からプロポーズを受けたその日、菅原さえ子(有村架純)はともに大きな事故に遭い、彼だけがこの世を去ってしまう。しかし、雄介の心臓は生きようとしていた。
重い病気を患っていた大学職員の成瀬和正(坂口健太郎)はこの心臓を移植されたことで、命をつなぎとめる。けれどもたびたび、自分のものではないはずの記憶がフラッシュバックする。そう、和正は雄介の記憶を引き継いでいるのだ。やがて偶然か必然か、さえ子と和正は出会い、惹かれ合っていくことになるーー。
こうして簡単なあらすじを記しただけでも、これが純愛物語なのだと、いや、これぞ真の純愛物語なのだと分かるというものだろう。ヒロインのさえ子は幸せの絶頂期に最愛の人を亡くし、その彼の心臓によって生かされている和正と出会うーー客観的に見れば、あまりにも残酷すぎる運命の悪戯。ともすると悲壮感に満ちた作品になりそうなものだが、本作は終始明るい。生前の雄介がまさに太陽のような人間だったからだ。
これまでにも坂口は、観る者が胸を締め付けられる恋愛物語で主演を務めてきた。『今夜、ロマンス劇場で』(2018年)や『連続ドラマW そして、生きる』(2019年/WOWOW)、『余命10年』(2022年)などがそうだ。いずれも彼の代表作に数えられるもの。だから『さよならのつづき』のあらすじと彼が担う役どころを知って、坂口が主演するのは当然だと思った。いやむしろ、彼以外に成瀬和正を演じられる者がいるのだろうかと思ったくらいだ。正直なところ、答えは「YES」。俳優の数だけさまざまな可能性があるのが映画やドラマの面白いところだ。しかしながら「坂口健太郎=成瀬和正」という最適解を超えるものはないだろうと、鑑賞を終えた誰もが答えるはずだ。坂口はこの役を“大きな運命を背負った人間”に留めていないのである。