『宙わたる教室』何のために“頑張る”のか? 窪田正孝の“実験”が科学の楽しさを呼び起こす

 学会発表を目指す定時制科学部の学生たちはそういうプレッシャーから無縁だ。前例のない挑戦ゆえに、誰からも期待されていないといえば、そうかもしれない。だけど、必ずしも頑張る理由に期待は必要ないのではないか。

 もともと、読み書きに困難のある岳人は世間の“普通”に馴染めず、周りから不良品扱いされ、起立性調節障害を抱える佳純は常に優秀な姉と比べられ、何かを頑張ろうとしても「どうせすぐ諦める」という言葉に心を打ち砕かれていた。それはまるで、恒星系からはぐれて、孤独に銀河をさまよう浮遊惑星のように生きてきた2人。だが、定時制の科学部という場所で別の惑星とランデブー(≒出会い)した。

  岳人は長嶺の作ったごはんで力を蓄えて練りに練ったアイデアを褒められ、佳純は「私は佳純ちゃんの素敵なとこ、いっぱい知ってる。佳純ちゃんは佳純ちゃんよ。お姉ちゃんと比べるなんて何一つない」というアンジェラの言葉に救われる。一方で、残りの人生を妻への贖罪だけに注ぎ込もうとしていた長嶺も、自分の夢を大したものじゃないと諦めかけていたアンジェラも、若い2人からパワーをもらっているのだろう。そうやって、誰かと関わることによって得た自己肯定感や刺激が化学反応を起こし、思ってもみない結果を出す。

 それが失敗か成功かは関係ない。それはそれとして、「私はここにいてもいいんだ」「たとえ誰かが認めてくれなくても、私がここにいる意味はある」と思える揺るぎない自分があるからこそ、安心してトライアンドエラーができる。研究者としてのピークは終わったと裏で言われている、はぐれ惑星の1人である藤竹も壮大な“実験”を面白がってくれる伊之瀬がいるから自分の居場所を自分で決められるのだろう。

 忙しい合間を拭ってそんな2人との時間をわざわざ作る相澤も、本当はデータとにらめっこするのではなく、手を動かして惑星探査機の模型を明け方まで夢中に作っていた頃の情熱や高揚感を取り戻したいのかもしれない。今はまだ恒星の重力に束縛されたその心が、いつか広い銀河に解き放たれることを願って。

■放送情報
ドラマ10『宙わたる教室』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜1900放送
NHKプラスにて、同時配信・見逃し配信(放送後から1週間):https://www.nhk.jp/p/ts/11GMGMRG5V/plus/
出演:窪田正孝、小林虎之介、伊東蒼、ガウ、田中哲司、木村文乃、中村蒼、イッセー尾形 ほか
原作:伊与原新『宙わたる教室』
脚本:澤井香織
演出:吉川久岳(ランプ)、一色隆司(NHKエンタープライズ)、山下和徳
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK

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