“フォトジェニック”な殺人の美学 『キラー・ザ・ハイヒール』が導くゲームの結末
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ハイヒールは30分しか履いていられない佐藤が『キラー・ザ・ハイヒール』をプッシュします。
『キラー・ザ・ハイヒール』
実は原題『This Game's Called Murder』が最大の伏線となっている本作。このタイトルが示す通り、ゲームのような非現実的な世界観の中でフォトジェニックな殺人が、普遍的なアートとしての美しさだけでなく、若者のSNS映え的な要素も意識した刺激的なエンターテインメントとして繰り広げられていく。
ファッション界の大物、ミスター・ウォーレンドルフを父に持ち、自身も人気インフルエンサーとして活動する主人公ジェニファーの心の葛藤を軸に展開していく物語は、なんの変哲もない「赤いハイヒール」がアイコンとして繰り返し登場する。冒頭からミスター・ウォーレンドルフによって“催眠”がかけられ、私たち観客に向けて赤いハイヒールがなぜかものすごく魅力的なものである、ということが頭に焼き付けられていく。
ジェニファーの両親はとにかくクレイジーで、凡人にはない発想で欲望のままに生きている。この設定もかなり面白い。父親は自身が作った赤いハイヒールのプロモーション映像として、男女に限らずモデルを呼び込み、裸に赤いハイヒールを身につけた状態で大量の血を流して死んでいく人の姿を映像に収めることに最大の幸福を感じている。そして母親は、出演シーンこそ少ないが、鏡の中にいる自分の分身=イマジナリーフレンドの命令を聞くことで自分の存在価値を確認しており、家来の頭に電動ドライバーで穴を開け殺した後も、何事もなかったように踊り出したりと、とことんぶっ飛び夫婦なのだ。
そんな両親だが、娘のジェニファーの前では普通の親らしい態度を見せており、ティーンである娘がぶつける疑問に対しても「どの口が言ってんの?」というくらいにまともな返しをしているので、このギャップもなかなか面白い。「ただ“金と権力”を持ち合わせた家族がバレない程度に殺しを行っている話ね〜」と、観ている自分の感覚もどんどん麻痺していくのを楽しんでみるのもいいかもしれない。