『虎に翼』よねと轟が向き合う“尊属殺人罪”の問題 桂場の渋面に重ねたサイレンの不穏さ

 昭和43年10月の深夜。酷い雨が降りしきる中で、女性が父親を殺害する事件が起こった。親等上の父母と同列以上にある血族を殺害する尊属殺人は、通常の殺人罪よりも罪が重く規定されていた。後に尊属殺人罪そのものを問い直すことになるきっかけの事件である。『虎に翼』(NHK総合)第117話では、穂高(小林薫)の思いを背負って、寅子(伊藤沙莉)らかつての教え子たちが「法の下の平等」について向き合う。

 尊属殺人の弁護の依頼が、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)のもとに届いたその頃、桂場(松山ケンイチ)が第五代最高裁長官に就任した。その祝賀会が梅子(平岩紙)と道男(和田庵)の「竹もと」改め、「笹竹」で開かれることになった。「この国を、司法を頼むぞ」という多岐川(滝藤賢一)の言葉に顔をしかめる桂場(松山ケンイチ)だが、その奥には並々ならぬ思いを感じる。桂場が司法のトップに上り詰めたことで、世の中の不平等が少しでも変わっていくことに誰もが期待を寄せていた。

 桂場が最高裁長官に就任したと同時に、汐見(平埜生成)は事務総局の事務次長として司法行政を担当、航一(岡田将生)は上告された事件をどの法定で取り扱うのか制定する最高裁調査官室の中枢として活躍していた。汐見の下についた朋一(井上祐貴)に「勉強熱心で真面目」で助けられていると語る汐見に、航一は「寅子さんの影響か、最近は理想に燃えていて視野が狭くなり、正論を述べることと上に噛みつくことを混同しがちと言いますか」と答える。航一もすっかり父親らしくなってきた。

 そんな中、朋一から東大当局が警視庁に機動隊の要請をしたという知らせがくる。1960年代後半のベトナム戦争への国の加担、日米安全保障条約の更新反対を理由に、不満を募らせた若者たちが暴徒化。いわゆる、70年安保闘争だ。東大においても大学改革を訴える若者たちが安田講堂を占拠し、機動隊と激しい攻防を繰り広げ、多数の逮捕者が出る事態となった。

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