『アンパンマン』が夜の劇場で再熱 “大人向け”施策が生む新たな集客チャンスとは?

 劇場版『アンパンマン』シリーズの記念すべき第35作目となる『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』が、新たな観賞スタイルで注目を集めている。「夜の時間帯」に「通常音量」で上映され、「場内暗転」という大人向けの雰囲気で楽しめる「アンパンマンナイト」が予想以上の人気を博し、当初は池袋限定だった企画が8月11日より全国各地の映画館へと拡大されることが正式に発表された。さらに、この画期的な上映スタイルの先駆けとなったシネ・リーブル池袋では、8月9日の上映回で「発声可能応援上映」を実施。これにより、観客参加型の新たな楽しみ方が加わることとなった。

 本作は、『アンパンマン』シリーズの長い歴史の中でも特筆すべき好調なスタートを切っており、過去作品の興行成績を大きく上回る勢いを見せている。6月28日の公開初日から、わずか週末3日間で観客動員13.7万人という驚異的な数字を叩き出し、歴代ナンバーワンの大ヒットスタートを記録。この予想を超える人気の背景には、独特のストーリー展開がある。

 今回の映画では、これまでにない趣向として絵本の世界を舞台に選び、常に対立関係にあったアンパンマンとばいきんまんが、予想外の展開で力を合わせて活躍するという斬新な設定が採用された。普段はアンパンマンの邪魔ばかりしているイメージの強いばいきんまんが、勇気を奮い起こして困難に立ち向かう姿に、子どもたちはもちろんのこと、大人の観客からも「胸が熱くなった」という感想が多数寄せられている。

 物語は、愛と勇気の戦士としての使命を背負い、思いがけず絵本の世界に引き込まれたばいきんまんが、可愛らしい妖精ルルンと出会い、共に力を合わせて森で暴れ回る脅威の「すいとるゾウ」を退治すべく奮闘する、というものだ。

 本作の脚本を手がけた米村正二氏は、ストーリーを構築する上で意識したことについて、「『アンパンマン』の映画には、ゲストキャラクターが出てきてアンパンマンが励ますという大きな流れがあるんですが、その役目を一度ばいきんまんにさせてみたらどうかな、というのが発想の原点」と、従来の型を破る試みの背景を明かしている(※)。

 確かに、ヒーローとしてのアンパンマンではなく、悪役のイメージが強いばいきんまんを主役に据えるという斬新な展開には、多少の違和感を覚える観客もいたかもしれない。しかし、このチャレンジングな設定により、ばいきんまんの諦めない精神や、何度でも立ち上がる不屈の精神が鮮やかに描き出され、その意外なカッコよさに大人の観客も心を奪われたのだろう。従来のアンパンマンファンはもちろん、新たな層の観客をも魅了する本作の人気の秘密が、ここにあったように思える。

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