『怪盗グルーのミニオン超変身』北米でV2達成 異色プロモーションのホラーが“台風の目”に
7月12日~14日の北米映画週末ランキングは、前週に引き続き『怪盗グルーのミニオン超変身』がNo.1を獲得した。週末3日間で4465万ドルを新たに稼ぎ出し、北米の興行収入は2億1110万ドル。世界累計興収は4億3780万ドルとなっている。
いまや、『怪盗グルー』『ミニオンズ』シリーズの世界興収は累計50億ドルを突破。アニメーション映画シリーズとしては史上初の快挙となった。これに先がけて、ユニバーサル・ピクチャーズは『ミニオンズ』の第3作を2027年6月30日に北米公開することを発表しており、フランチャイズの勢いはとどまるところを知らない。
しかしながら、北米週末興行の最も熱い話題を毎週追いかけている本稿としては、今週きちんとチェックしておくべきは『怪盗グルーのミニオン超変身』ではない。世界興収13億5000万ドルを突破、ピクサー史上最高のヒット作となった『インサイド・ヘッド2』を差し置いて初登場2位にランクインした1本のホラー/スリラー映画こそ、今週の「台風の目」なのである。
その映画『Longlegs(原題)』は、A24と並んでいま大きな注目を集めている製作・配給会社NEONが北米配給を担当した最新作。週末3日間の興行収入は事前の予想を上回る2260万ドルで、同社史上最高のスタートを切った。また、今年公開のオリジナルホラー作品としても最高の初動成績となっている。
FBIの新人女性捜査官が、オレゴン州で数十年にわたり発生している連続不審死事件の担当者に就任した。どの事件にも共通するのは、いずれも父親が妻と子どもを殺害したあと、「Longlegs」という暗号を残して自ら命を絶っていること。事件を追いはじめた捜査官は、やがてオカルトめいた手がかりを発見し……。
監督・脚本は『呪われし家に咲く一輪の花』(2016年)のオズ・パーキンス。1980年代から俳優としても活動しており、近作にジョーダン・ピール監督『NOPE/ノープ』(2022年)がある。出演はマイカ・モンロー、ニコラス・ケイジほか。Rotten Tomatoesでは87%フレッシュという高評価を獲得、特にケイジの演技には称賛が寄せられている。
「25年前の7月、同じ週末に公開された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)以来、インディペンデントのジャンル映画で、これほどまでに予想を上回り、期待を上回り、基準を上回って、業界に“突如現れた”作品はありませんでした」
この映画の記録的発進を受けて、NEONはこうした声明を発表した(※1)。もっとも『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来だったのは、本作のためにNEONが講じてきた異色のプロモーションも同じだったのである。
はじまりは2024年1月、NEONは年明けから「謎の映画」の不気味なティザー映像を3週連続で公開。タイトルの代わりに謎の暗号が表示される、その映画の正体が『Longlegs』だと正式に判明したのは、翌2月に公開されたティザー予告編でのことだった。
公開1カ月前の6月中旬には、「The Birthday Murders」と題した1990年代風のウェブサイトを公開(※2)。このサイトでは劇中の「Longlegs事件」で被害者となった家族の情報や捜査の進捗、その過程で浮かび上がった容疑者の情報など、あらゆる情報を閲覧することができる。また、街中の看板や公式SNSには謎の電話番号を掲載。実際に電話をかけると、ニコラス・ケイジ演じる男の声が聞こえてくるという仕組みだった。
インディペンデントのホラー映画のため、プロモーションに約半年を費やすという戦略はまさに異例。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』がインターネットの黎明期に仕掛けた「大学生失踪事件の噂」を思わせる内容も、観客の好奇心を煽ることに成功した。
製作費は1000万ドル未満、オンラインに絞った宣伝戦略ゆえに広報・宣伝費も抑えられているため、劇場公開でのコスト回収はほぼ確実。観客の反応は賛否両論だが、ホラー映画には珍しいことではなく、今後の口コミ効果にも期待できる(観客の70%以上が18歳~34歳という若年層なのも興味深い)。現時点で日本公開は未定だが、こうしたプロモーションも含めてまるごとローカライズしてほしい一本である。