河合優実を中心に端役まで出演者全員がベストアクト! すべての家族に響く『かぞかぞ』

 河合優実の時代が始まっている。

 もちろん、映画『由宇子の天秤』(2021年)や映画『サマーフィルムにのって』(2021年)などへの出演で各映画祭の新人女優賞を総ナメにしたあたりから映画ファンには知られた存在だったが、多くの人に「見つかった」のが今年1月期のドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)でのヤンキー娘・純子役であり、「やっぱりすごい」と思わせたのが主演映画『あんのこと』での現代の悲劇を一身に背負ったような少女・杏役であり、「この人はどこまですごいんだ」と震撼させたのが現在公開中のアニメ『ルックバック』での主人公・藤野役だろう。

河合優実が『不適切にもほどがある!』でお茶の間に“見つかる”! 昭和の女子高生役の衝撃

時折、ドラマを観ていると「見つけた!」と思う瞬間がやって来る。  ビジュアル、演技、役とのシンクロ率が極限に高まった俳優を見て…

 ナチュラルでルーズでコミカルな味わいがありつつ、恐ろしく演技の表現が的確で、すべての役柄にすさまじい実在感を与えてくれる。それが現時点での河合優実への評価と言っていいような気がするが、まだまだ底知れない。

 そんな河合の連続ドラマ初主演作が、NHKドラマ10『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』だ。通称『かぞかぞ』。作家・岸田奈美が自身の家族を題材に綴った人気エッセイのドラマ化で、2023年5月にNHK-BSで放送されている。多彩かつ個性的なキャストが顔を揃えた奥行きのある新時代のホームドラマで、河合は堂々と単独主演を務めきってみせた。

 高校生の岸本七実(河合優実)の家族は、車椅子ユーザーになった母・ひとみ(坂井真紀)、ダウン症の弟・草太(吉田葵)、家族の世話のために同居する大雑把でマイペースな祖母・芳子(美保純)、そして急性心筋梗塞で亡くなってしまった父・耕助(錦戸亮)という面々。

 父は早逝、母は下半身不随、弟はダウン症……端からは「悲劇」だと思われてしまいがちな家族だが、七実は中学時代に匿名掲示板で鍛え抜いた得意の文才で「喜劇」に変えてしまう。実際、七実の家族は、仲良しで、とてつもなく面倒くさいけど、とてつもなくおかしな人たちだったからだ。

 物語は、七実の「三軍」だった高校時代から、バイトに打ち込んだ大学時代、ドジと奇跡を交互に繰り返していた社会人時代、ブログがバズって人気作家になっていく姿を描きつつ、両親が若くて仲睦まじかった時代、大家族に嫁いだ祖母が明るく娘を育てていた時代などを自在に行き来しつつ進んでいく。

 メインキャストとなる岸本家の人々は、単に主人公を囲むキャラクターとしてではなく、誰もがひとりの人間として描かれているのが特徴だ。それぞれの生活歴を踏まえた上で、視点や心の動きを丹念に追っていく。身近な家族といえども、自分が知っているのは相手の一面に過ぎない。だからこそ、その人を知ることで、ますます愛することができるようになる。風変わりな岸本家だって最初から仲良しだったわけじゃない。長い時間をかけて、家族がお互いを愛していく過程を追っていくドラマだと言えるだろう。

 もう一つの大きなテーマが、障害のある人が生きやすい社会の実現だ。けっして大上段で構えたりしないが、ユーモアをまじえて車椅子ユーザーやダウン症の人たちの日常生活を描いていく。

 七実が車椅子の母・ひとみと一緒に入れなかったカフェを思い返しながら、「優しい社会にして、あのカフェの前の段差をぶっつぶす。これが私のやりたいことや」と誓う場面がある。その言葉のまま、彼女は大学で福祉を学び、ユニバーサルデザインの会社に就職する……が、彼女の歩みはまったく一直線ではない。なにせ作家になってしまうのだから。でも、そこで七実が文章を通じて多くの人に伝えていくのが、助け合いの精神であり、自分の身近にいる面倒くさい人たち(七実の場合は家族)と向きあうことの大切さであり、なによりユーモアの重要性である。その先に、きっと障害のある人が生きやすい社会があるのだろう。知らんけど。

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