『ルックバック』河合優実&吉田美月喜の声にある“身体性” 俳優が声優を務める美点とは

 『ルックバック』を鑑賞する前日に「ある告白に関する物語」を観劇していたため、私は2日連続で吉田美月喜のパフォーマンスを堪能することになった。『ルックバック』で演じる京本と「ある告白に関する物語」で演じるマイカは、バックグラウンドが大きく異なるキャラクターだ。作品のフォーマットも違うのだから、声の出し方だって当然ながら違う。

 しかも舞台上での彼女の声には、彼女自身の身体の動きがともなってくる。いや、正確にいえば、声と身体は感情を発するうえで連動し合うものだ。“体現”という言葉があるくらいだから、俳優には身体というものが無くてはならない。だが声を収録する現場では、この身体の動きが制限される。しかしそれでも抑えきれない身体から発される情報が、俳優が声優を務める際、その声に乗るのではないだろうか。だから俳優たちの声には、“身体”が感じられる瞬間があるのではないか。引っ込み思案な京本が自分の気持ちを絞り出す際の吉田の声は、まるでこの手で触れられるようなのである。

 これは藤野役の河合にだっていえることだし、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』でダブル主演を務めている幾田りら&あのコンビにもいえること。本業がミュージシャンである幾田の声にはリズミカルでダンサブルな身体が見え隠れし、バラエティ番組などでも人気のあのの声には、彼女自身が普段から見せる自由な身体が反映されているように感じる。

 キャラクターの声のイメージに合うかどうかも重要だが、“声の芝居”が器用な者であれば、だいたいの役は演じられるものなのかもしれない。しかし技術だけでは、“ハマり役”と呼べる域にまでは到達しないだろう。俳優の声に身体が見える(感じられる)とき、劇中のキャラクターたちはより立体的な存在になるのではないか。そしておそらくそれが、職業声優ではない者たちが“ハマり役”を得られた瞬間なのだと思うのである。

■公開情報
『ルックバック』
全国公開中
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
出演:河合優実、吉田美月喜
音楽:haruka nakamura 
アニメーション制作:スタジオドリアン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©藤本タツキ/集英社 ©2024「ルックバック」製作委員会
公式サイト:lookback-anime.com
公式X(旧Twitter):@lookback_anime

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