『不適切にもほどがある!』が令和に残したメッセージ ラストに出た予想外のテロップ

 一方で、市郎と入れ替わる形でテレビ局のカウンセラーに就任したサカエ(吉田羊)の元に寄せられた、実に今の世の中らしい相談事やクレームを聞くと、「イヤ〜、令和無理!」と言わずにはいられない市郎の気持ちにも共感してしまった。そう、サプライズ出演したCreepy Nutsが歌う主題歌『二度寝』の歌詞〈どこに居ても“こんな時代”と思ってしまうかも〉のように、令和だって昭和だって、どの時代にだって「こんな時代」と言いたくなる側面があるのだ。

 とはいえ、市郎が教え子たちに「お前らの未来はおもしれぇから」と晴れやかな顔で伝えている姿に、やはり世の中少しはマシになっているよね、と思えた。なかでも、キヨシ(坂元愛登)が不登校の友人・佐高(榎本司)に話したように「気が合うやつとは繋がれて、合わないやつとは関わらなくて済む。便利なもの、もうちょっと辛抱すればたくさんできるからさ」と、自分が誰とどう繋がるのかを選べるようになったのは大きい。

 渚(仲里依紗)と、彼女を「パワハラ上司」だと言い放った後輩・杉山(円井わん)との関係性も、すべてを水に流してこれまでのように仲良くなるなんてことはない。けれど、それぞれの幸せを「おめでとう」と言えるくらい、自分に余裕があるときだけ挨拶するくらいの距離感で付き合うことを選べる。「寛容になる」とは“相手のすべてを受け入ればければ”と囚われることではなく、むしろお互いに“100%は寄り添えない”と認識して、その人との適切な距離を模索することのように思った。

 賛否両論を巻き起こす場面がいくつもあった本作についてもそうだ。「ここが面白かった」と思う声に賛同したり、「どうなんだろう?」と疑問を持つ人の意見に耳を傾け、新たな気づきを得たり……。そうした数ある声の中で誰とどう繋がるかは自分次第。そう考えると、世界は随分と広くなったのではないだろうか。とはいえ、冒頭にも話したように今のこの感覚さえも変わっていくということを忘れてはならない。「寛容になりましょう」と歌って踊った本作を「こんなドラマがあったの?」なんて驚かれる日が来るかもしれないし、アップデートされたと思っていた価値観が「やっぱり違うんじゃないか」とひっくり返ることもあるかもしれない。でも、結末はわからないからワクワクするものだということも、このドラマは教えてくれた。

 もしかしたら2054年へと続くタイムトンネルをくぐり抜けた市郎が、再び未来に驚く様子を描く物語が、いつか再び作られる可能性もゼロではない。ちなみに、阿部サダヲも、宮藤官九郎も、八嶋智人も1970年生まれ。30年後は83歳だ。錦戸亮が古田新太に、磯村勇斗が彦摩呂になるくらいの変化があるだろうか。それともタイムスリップしたキヨシを見て佐高が驚いたように、「全然変わらないな」と言わずにはいられないくらいの活躍を見せてくれているだろうか。そして、自分は……? なんて想像力を膨らませてくれるラストにしてくれたことに感謝したい。

 同時に、いつか必ず大切な人との別れも訪れるということも、しっかりと心に刻まれた。今、この瞬間に繋がれりたい人と、ひとつでも多くのきらめく思い出を作ること。そう考えると関わりたくない人に振り回されている暇はないのかもしれない。そして、できれば2054年にみんなで元気に振り返ろうではないか。「あのころには想像もつかなかった世の中になったけれど、未来は面白くなったな」と。

■配信情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TVer、U-NEXT Paraviコーナーにて配信中
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs 

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