北欧発の新たな“問題作” 『ゴッドランド/GODLAND』は生身のアイスランドをあぶり出す

 厳しい気候と巨大な氷河で知られる、北大西洋の孤島「アイスランド」。冬は極寒の地となり、夏至の頃には太陽が一日中沈まない「白夜」が訪れる。活発な火山活動も有名で、最近も大規模な噴火によって南西部の町から全住民が避難する事態となった。そんな力強くも過酷な自然環境のなかにある島国から、新たな“問題作”といえる映画が出現した。

 『馬々と人間たち』(2013年)や『LAMB/ラム』(2021年)など、アイスランド映画は、人間ドラマとともに、そんな厳しい自然と隣り合わせにある人々の営みを描いている。そこでは、同じ文化圏にあるヨーロッパの国々の作品とは異なる特徴がさまざまに存在し、観客に唯一無二の不思議な印象と感動を与えてきた。

 そんなアイスランド映画のなかでも、ここで紹介する、気鋭の監督フリーヌル・パルマソンによる『ゴッドランド/GODLAND』は、この特徴的な島国の歴史や人の感情が色濃く反映した、「アイスランド」の一つの象徴となり得る、稀有な一作となった。内容への評価も高く、ロンドン映画祭やシカゴ国際映画祭で最優秀作品に選ばれるなど、世界の32もの映画祭で18部門受賞を達成している。

 しかし、意外な展開が連続していくミステリアスな展開は、観客によっては不可解で理解し難いと感じられるところがあるかもしれない。ここでは極力、ストーリー展開についてのネタバレに気をつけながら、本作を理解するための前提知識や、テーマへとアクセスできる解説をすることで、『ゴッドランド/GODLAND』を最大限に味わう手助けをしていきたいと思う。

 舞台となる時代は、19世紀後半。デンマークの若い牧師ルーカス(エリオット・クロセット・ホーヴ)は、司教(ワーゲ・サンド)から、アイスランドの辺境の村での教会建築を監督するという任務を命じられる。そうして、写真機や蔵書、重い十字架を携えて、ルーカスら一行は、足を踏み入れたことのない島国へと赴くことになる。

 船が浜に着くと、馬に乗り陸路で目的地へと向かおうとするルーカス一行。記念写真を撮りながら島の大地を進んでいこうとするルーカスの悠長さと、自然の脅威に対する過信は、のちに取り返しのつかない惨事を引き起こすことになる。彼らを取り巻く雄大で厳かな自然が、横幅の短い「スタンダードサイズ」、端が“角丸”というレトロな印象の画面で切り取られていることや、それを長回しで見せていくところが、非常に面白い。まるで、アイスランドの自然のスケールが、人間の知覚の枠に収まらないことを示しているようである。

 自然の脅威だけでなく、ルーカスにとって頼りになるはずの現地のガイド、ラグナル(イングヴァール・E・シーグルズソン)の、デンマーク人への嫌悪感にも、底知れないものがある。人口の少ない島国は往々にして、時代のなかで大国に支配されてきたが、アイスランドもまた、ノルウェーやデンマークに統治されてきた歴史を持つ。

 本作で描かれる時代は、まさにデンマークがアイスランドを植民地としていたとき。文明が発達し大きな武力を持つ宗主国からやってきた人物に快い感情を持てない住民も、当然少なくないのだ。デンマークとアイスランドとの関係は、その後も長く続き、アイスランドが現在のように完全な主権国家となったのは、第二次世界大戦後のことである。

 アイスランドが一つの共同体としての機能を持ち始めたのは、9世紀末頃に島に渡っていた、わずかな数のアイスランド人やスコットランド人に加えて、スカンジナビア半島からヴァイキングが入植してきたことが契機となっている。それまで島は豊かな緑に覆われていたというが、森の木々は資材としてほとんど刈り尽くされ、アイスランドは不毛の地になってしまっていた。本作では、そういった経緯で自然が破壊された島の特徴も言及される。

 そんな荒涼とした景色のなかで、ルーカスは現地のガイドなどにデンマークの言葉が通じない歯がゆさや、自分に向けられる敵意に疲弊していき、次第に精神のバランスを崩していくことになる。彼がアイスランドに持ち込んだ、大きく重い十字架や写真機が象徴するのは、辺境の地の人々を“神の光”と“文明の光”で照らそうという、彼の一方的な意識である。しかし、言葉の通じないガイドたちから冷ややかな目で見られることで、そんな彼の理想が崩れ去っていくのである。

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