『いちばんすきな花』4人の関係に親近感? 椿の家にみる“サードプレイス”の重要性
ここで交わされるやり取りは、とても心の休まるものだ。“場=環境”を維持するための役割はあるが、個人のキャラクターにまで何かを求めることはない。似た価値観を持つ4人の男女が、どこの誰といるときよりも自然体で自由でいられるだけだ。
けれども、男女が一緒にいるだけで「恋人同士?」などと聞いてくる人間は世間にごまんといるし、男女が定期的に集まっていれば、偶発的というよりはほとんど必然的に「恋人同士」が誕生したりもする。こんな関係性が末長く続けばいいのだが、「友情」と「(恋)愛(感)情」を取り違えた人々の関係が継続しないのは世の常だ。この点の認識がズレた人間がひとりでもいると、せっかく生まれた特別なコミュニティは瞬時に崩壊する。「親しき仲にも礼儀あり」は当然であり、他者とのコミュニケーションはある種の緊張感を持って臨まなければならない。この前提があるからこそ、『いちばん好きな花』のようなコミュニティは存続できるのだ。
実際のところ、この4人の信頼関係が発展していくにつれ、恋愛の気配は生まれた。筆者としてはこの展開に少しばかりガッカリしたものだが、男女が集まればやはりしょうがないのかもしれない。思い返してみれば、現実で似たような展開に直面したことは何度もあるのだ。
だけども『いちばん好きな花』の4人は少し違う。彼ら彼女らは自分たちの心地よい居場所を守るため、感情をセーブする。これに関しては異を唱えたいとも思った。誰もが控えめなのだ。特定の個人と築きたい特別な関係性があるのならば、コミュニティにヒビを入れてでも主張をすべきだと考えるからである。しかしこの4人はそれを避け、何よりもコミュニティの存続を望んでいる。
筆者にもこういうサードプレイスがある。社会的な立場やある種の格差、付き合っていくうえでの損得勘定のないコミュニティである。ここでは自身の仕事について熱く語ることなどないし、集まっても他愛のない話しかしない。誰も他者を否定せず、かといって全肯定するわけでもない。ただただ受け入れ合うのだ。もしもみんなで仕事に取り組む場合、ただただ受け入れ合うだけではプロジェクトは成立しないだろう。しかし、このコミュニティはそういったものから切り離されたもの。絶対に失いたくはない。4人の関係に、親近感を覚えずにはいられないのである。
「春木椿の家」という集まる場を失ったとき、4人はどうなるのだろうか。コミュニティとは人が集まり生まれるものだが、やはり“場所”の力は大きい。けれども、もっとも重要なのはやはり“人”だろう。“居場所”をつくるのはいつだって“人”なのだから。
この息苦しい社会をサバイブしていくためには、心と体を休められるサードプレイスが必要だ。それは何かに縛られることのない、特別な人間関係のことである。
■放送情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
※最終回は15分拡大放送
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、一ノ瀬颯、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
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