『名探偵ポアロ』日本人ヘアメイクデザイナーにインタビュー ケネス・ブラナーとの秘話も

 アガサ・クリスティのミステリー小説をケネス・ブラナーが監督・主演を務め映画化する人気シリーズ第3弾『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』に、ある日本人アーティストが参加しているのをご存知だろうか。『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』の前2作から引き続き参加している、ヘアメイクデザイナーの吉原若菜だ。『シンデレラ』(2015年)から付き合いがあるブラナーの人柄や、「最も挑戦的なプロジェクトだった」という『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』の撮影秘話を聞いた。

『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は“最も挑戦的なプロジェクト”だった

ーー『名探偵ポアロ』シリーズへの参加は、『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』に続いて、3度目ですね。撮影を振り返っていかがですか?

吉原若菜(以下、吉原):ケネスさんは毎回同じクルーを使うので、作品に入るたびにみんなで「また一緒にできてよかったね」という話をするんです。ただ、ポアロ以外は登場するキャラクターも違いますし、作品ごとに年代も変わっているので、そこが大きな違いですね。今回の『ベネチアの亡霊』の舞台は1940年代のイタリア・ベネチアなので、髪型やメイクアップにも戦争の影響を取り入れています。『名探偵ポアロ』という同じシリーズではありますが、全く違う映画として撮影している感覚がありました。

ーー吉原さんはヘアメイクチームの中で、リーダー的なポジションに当たるわけですよね?

吉原:はい。私とケネスさんで、「この方はこういう髪型、こういうメイクにしましょう」ということを一緒に決めていきます。今回の場合、私自身でヘアメイクを行ったのは、ケネスさんとミシェル・ヨーさん、ジェイミー・ドーナンさんの3人です。あとは日によって他の方を見たり、それ以外の方はチームのみんなに指示を出して行っていくかたちでした。

 
 
 
 
 
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ーー本作での経験について、ご自身のInstagramでは「最も挑戦的なプロジェクトだった」と綴られていましたね。

吉原:今回は、前の2作よりも撮影期間が短かったんです。一方で脚本のページ数は過去最多だったので、1日に撮る量が過去2作と比べて2倍程度ありました。しかもケネスさんは撮影するスピードがとても速いのですが、監督と主演を兼任しているので、撮影した素材をプレイバックする時間も必要になってきます。チェックする時間も限られてくるので、そのあたりは非常に大変でした。それと、撮影した場所が真っ暗だったのも理由のひとつです。照明がロウソク程度しかない上に、非常に狭いセットで、コロナ対策もしなければなりませんでした。全員がセットの中に入れなかったので、チェックは違う場所で行っていたんですが、撮影する場所の照明とチェックをする場所の照明が違うので、どうしても見え方が変わってきてしまうんです。

ーーなるほど、光の加減で色も変わって見えてしまうと。

吉原:チェックしたときは完璧に見えても、実際にセットの中で見てみたら、真っ暗なので全然違って見えてしまう。汗が出ると、ピカっと光ってしまったり……。なので私がセットに入らないときは、指示をうまく伝えるのも大変でした。現場で見ると「これはやりすぎでは?」というくらいのパウダーをつけてもらって、「信じられないかもしれないけど、私を信じて!」と説得する感じで(笑)。みんなも「こんな撮影は初めての経験だった」と口を揃えて言っていましたよ。体力的にも精神的にも、本当にチャレンジがたくさんある作品でした。

ーー全体を統括しながらご自身でも作業を行っていくというのは相当大変な作業ですよね。

吉原:今回は先にイギリスで中の撮影をして、そのあとベネチアに行ったんですが、ベネチアのチームとのミーティングも必要だったりしたので、朝から晩まで本当に大変でした。大変すぎて覚えていないくらいです(笑)。“血と汗と涙の結晶”というほど頑張りました。

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