『VIVANT』のスケールを支える巧妙な脚本 “家族”と“国家”を描く難題をどう打ち破る?
TBS日曜劇場で放送されている『VIVANT』は、公安警察と自衛隊の秘密部情報隊・別班が、テロ組織・テントの謎を追うアドベンチャードラマである。
何者かの手によって誤送金された契約金を回収するため、バルカ共和国へと向かった丸菱商事の乃木憂助(堺雅人)は、テロ組織の手に渡った契約金を追う中で自爆テロに巻き込まれ、公安の野崎守(阿部寛)、医師の柚木薫(二階堂ふみ)と共に、バルカ警察に追われる身となる。
なんとか日本に帰国した乃木は、誤送金を偽装してテロ組織・テントに金を送ったモニターが、同僚の山本巧(迫田孝也)であることを突き止める。謎の男・黒須駿(松坂桃李)の協力で海外逃亡を目論む山本。だが、黒須は自衛隊の影の組織・別班の一員で、乃木もまた、別班のメンバーだったことが、第4話終盤で明らかとなった。
そして第5話では、乃木が幼少期にバルカ共和国の戦乱に巻き込まれ、家族と離れ離れになっていたことが野崎の調査で明らかとなる。
一方、乃木はテントのリーダーの行方を探るために黒須とともにバルカ共和国に潜入していた。誤送金先となったGFL社の社長・アリ・カーン(山中崇)がテントの上位幹部で日本担当だと知った乃木は、アリの家族を人質に取って脅迫し、テントのリーダーであるノゴーン・べキ(役所広司)が、生き別れになった父・乃木卓であることを確信する。
今回の第5話は、これまでの乃木の行動と過去を振り返ることで、乃木の人物像を浮き彫りにしていくエピソードだった。
気弱で情けない姿が強調されてきた乃木だったが、FBIの友人・サム(Martin Star)にハッキングを頼むことで、GFL社との契約金がダイヤモンドにロンダリングされて、テントの手に渡っていたことを突き止めるといった、普通の商社マンではできない行動もおこなっていた。
第1話で野崎の協力者・ドラム(富栄ドラム)に盗聴器を付けられた時も、乃木は気づいており、わざとそのままにしていたことが判明し、これまでの行動の多くが彼の芝居だったことが明らかとなる。
一方、乃木の中には、もう一つの人格・Fが存在することが、序盤から明かされていた。既存のサイコサスペンスドラマなら、商社マンとしての働く普段の人格が表の乃木で、別班として行動する裏の乃木がFといった形で、完全に分裂した存在として描かれがちだが、憂助はFの存在を認識しており、若い時から二人が対話していたことも明かされている。
その意味で二人は協力関係にあり、どうやら憂介は自分の意志で別班として行動しているようだ。憂介とFの関係にはまだまだ謎が多いが、憂介の正体が別班だとわかり、彼が同僚の山本を尋問した上で殺害したことで、物語は一気に加速し、作品の輪郭がはっきりしたように感じる。
山本やアリを追い詰める際に高圧的に捲し立てる乃木の姿は、過去に堺が演じた『半沢直樹』(TBS系)の半沢直樹や『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)の古美門研介を彷彿とさせるエキセントリックなダークヒーローとなっており、堺の十八番と言える芝居となっている。
主人公でありながら、どこか影の薄かった乃木の輪郭がはっきりしたことで、連続ドラマとしての『VIVANT』は一気にわかりやすくなったと言える。逆に言うと、最大の武器といえる乃木のダークヒーローとしての魅力を「よくここまで温存したなぁ」と脚本の巧みさに感心する。