『らんまん』金色の道へ巣立っていく長屋の面々 子沢山な万太郎の眼前には“貧乏”の壁が
〈全国の諸君よ 身近にありし植物を槙野に送られたし 其れは光となり水となり槙野を大きく育てることとなるだろう〉
虎鉄少年(寺田心)との出会いをきっかけに、万太郎(神木隆之介)のもとに名前がわからない植物の標本が次々と送られてくるようになった。田邊教授(要潤)は万太郎から植物学教室で有する標本や資料を取り上げることで、彼の植物学者としての生命を絶とうとしたのかもしれない。だが、そんな彼にも万太郎から草花を取り上げることはできなかった。
絶望の淵に立たされたことで2つの気づきを得た万太郎。1つはどんな時でも花は咲くということ。そしてもう1つは、自分と同じように植物を愛する仲間が全国にいるということだ。その気づきを、丈之助(山脇辰哉)が一つの形に落とし込む。万太郎は新聞に「標本送ってくれたなら、草花の名前教えます」という広告を出し、全国から植物標本を募ることに。それはきっと植物学者・槙野万太郎を育てることになる……丈之助による餞別代わりの広告文は、読む人の好奇心を駆り立てる文学者らしい言葉で綴られていた。
出会いがあれば、別れも。『らんまん』(NHK総合)第96話では、3年という月日が流れる。その間に万太郎を取り巻く周りの環境も様変わりし、多くの人が巣立ちの日を迎えていた。丈之助は講師の仕事が決まり、妻を迎えて新居へ越していく。その妻がかねてより惚れ込んでいた遊郭の女性なのかどうかはわからない。だが、以前より明らかに身綺麗になった丈之助から確かな自信と覚悟を感じた。
何より印象的なのは、彼の「万ちゃんがこのまま途方もないことやり遂げるなら、俺もやれるからさ」という言葉だ。十徳長屋に来たばかりの万太郎は大量の標本を抱えていた。だけど、それだけしか持っていなかった。小学校中退で学歴もなく、商家の跡取り息子という身分も捨て、お金になりそうもない植物とほぼ身一つで上京してきた万太郎。そこから彼が東大植物学教室への出入りを許され、植物学雑誌や図鑑を作り、新種の名付け親にまでなるとは誰も思っていなかっただろう。そんな誰も予想できないことをやってのける万太郎をもっとも近くで見てきた長屋の人たちの心にも希望という種がまかれ、蕾が芽吹いた。