チェス本でナチスに挑む『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』 現実と妄想の交錯が導く結末とは

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、怖い話をネットで読んでしまい、最近よく眠れていない佐藤が『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』をプッシュします。

『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』

 本作の特徴は、主人公・ヨーゼフの過去の現実と妄想が交互に描かれ、次第にその2つの世界線がシンクロしていくことで現在の現実に辿り着くことができる面白さにあると思う。そして、観客がこの巧みな場面切り替えについていく楽しさを実現させているのは、主演のオリヴァー・マスッチの芝居にあると感じた。

 かつてウィーンで公証人を務めていたヨーゼフは、ナチス支配下のオーストリアでその全てを奪われ、ホテルに軟禁され、「特別治療」と称された時間感覚を断ち切り、孤独感を与え続けるという極限状態に追い込まれた過去を抱えていた。そして、拷問を受けたヨーゼフの精神は、次第に崩壊していくも、尋問の際に部屋の外で“チェス”の説明が記された本を手に入れたことで物語が大きく動いていく。

 オリヴァーが、そんな過酷な環境に置かれた人間の生き様を表情や目線、歩き方、話し方など全身を使って表現しているのがとても印象的だった。そして、本作では、オリヴァーが体現する演技が、戦前と戦後で一変するところにも注目していただきたい。映画の最初で登場するヨーゼフの特徴は、表情が大きく変わることがなく、自分に誇りを持った行動を取っているのが読み取れる。しかし、徹底的な孤独を与えれられるという拷問を受けたことで、独り言が増え、表情が異常に豊かになったり、秘密警察捜査官のフランツの前などでも哀れな姿を見せたりと狂乱に堕ちていく様子が苦しいほどリアルに描かれていた。

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