小芝風花主演ドラマ『波よ聞いてくれ』をアニメ版と比較 演出や展開の大きな違いは?
ドラマならではの楽しみ方
「光雄に対する愚痴と宣戦布告」に始まり「光雄の埋葬」で終わるアニメ版は、話数の関係上、初期の物語の一つの区切りとなる光雄とのストーリーがクライマックスに用いられていた。そのため、サイドのキャラクターの話も一応出てくるものの、基本的には主人公の話にとどまっている。
一方、ドラマ版は豪華キャストが演じるサブキャラを放置しないためにも、原作ではもう少し後の方に登場する(そしてアニメ版では登場しなかった)それぞれのエピソードが毎話ごとに展開される。そうすることで個々のキャラクターと俳優にスポットライトを当てることも、ドラマ化ならではの演出方法だ。こちらの方が物語のテンポもよい。
俳優陣もかなり豪華だ。そして、豪華なだけではなく誰もが実力派俳優であることも重要。主人公のミナレはもちろん、周囲のキャラクターも彼女に対するツッコミの速度や間の取り方など、やはりセリフ運びにおいて多くを要求される。麻藤兼嗣を原作、アニメに続きあそこまでダンディに演じられる役者は北村一輝をおいて他にいないし、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)や『ナンバMG5』(フジテレビ系)、そして映画『すずめの戸締まり』のヒロイン役でフレッシュさを発揮している原菜乃華も、瑞穂役にピッタリだ。本来彼女に思いを寄せる男性エンジニアのキャラクターはドラマで女性キャラに変更され、『妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪―』(テレビ朝日系)で小芝と共演経験のある井頭愛海が演じている。
変更といえば、VOYAGERでミナレと共に働き、彼女に片思いをする中原忠也を原作&アニメ通りの男くさいオラオラ系ではなく、片寄涼太が体現するかわいい年下系にしたことも興味深い。GENERATIONS from EXILE TRIBEに所属する片寄は、2014年のドラマ『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)でデビュー後、映画やドラマで主演を務めるほど精力的に俳優活動をしているため、演技力も安定している。特に、もともと様々なカルチャーリファレンスが多い『波よ聞いてくれ』の作風に合わせて、彼の出演作『兄に愛されすぎて困ってます』のタイトルが劇中に出されるシーンは面白かった。役者に合わせたギャグを盛り込む演出も、ドラマならではの良さである。
興味深い配役といえば、茅代まどか役の平野綾だ。ヘアスタイルなど容姿の違いはあれど、ある意味アニメ版のキャラクターそのもののイメージを崩さないキャスティングになっていて嬉しい。本作はアニメもドラマも共通して、“言葉”と、それを運ぶ“声”が重要な作品である。そこに十分な説得力を持たせる存在が、平野なのだ。
そして何より、小芝が演じるミナレも彼女なりにアレンジされていて、オリジナリティがある。もともと演じてきた役柄から活発な印象は持っていたが、かわいらしい顔立ちでもあるため少し荒んだ美人系のミナレのイメージとは少し乖離している印象だった。しかし、地毛を金髪に染め、アニメ版で声優を務めた杉山里穂の台詞回しに近い形で、小芝としてのミナレを完成させている。膨大なセリフ量をものともせず、噛まないマシンガントークっぷりも凄まじくて、まさに小芝の俳優力がふんだんに発揮されるような役だ。
“コメディエンヌ小芝風花の新境地”と今回謳われているが、確かに原作のミナレよりも若干荒い口調など、これまでの小芝のキャリアを考えると少し新鮮な役柄ではあるものの、そういったタイトルに縛られず、本作や『女子的生活』(NHK総合)で見せたような新しい顔を今後も見ていきたい。
原作、アニメがあることで実写化作品はどうしても作ることが難しい。その問題は本作に限らず付きまとうものだが、共通して言えることは、それぞれが持つ独自の良さに目を向けることが大切なのかもしれない。テンポも良く、次に何が起きるのか予想できない面白さのあるドラマ版が、今後どのように『波よ聞いてくれ』を描いていくのか見守っていきたい。
■放送情報
『波よ聞いてくれ』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15〜0:15放送
出演:小芝風花、片寄涼太、原菜乃華、中村ゆりか、平野綾、西村瑞樹(バイきんぐ)、井頭愛海、中川知香、小市慢太郎、北村一輝ほか原作:沙村広明『波よ聞いてくれ』(講談社『月刊アフタヌーン』連載)
脚本:古家和尚
演出:住田崇、片山修、植田尚
音楽:林ゆうき、山城ショウゴ
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:高崎壮太(テレビ朝日)、神通勉(MMJ)
制作:テレビ朝日、MMJ
©テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/namiyo/