『ひとりぼっち』に込められた橋田壽賀子への哀悼 坂本冬美と一路真輝の姿に重なる歴史

「初めて来たとき驚いたな。あまりにも似てるから」

 4月9日に放送された『ひとりぼっち ―人と人をつなぐ愛の物語―』(TBS系)は、大切な人に宛てた私信のような作品だった。

 自分の知っている誰かとよく似た人に会ったことはないだろうか。『ひとりぼっち』はそんなアイデアから着想を得ている。主人公の杉信也(相葉雅紀)は水道メーターの検針員で周囲に心を閉ざして生きている。ある日、学生時代の友人の川原(えなりかずき)に食事に誘われ、向かった先は商店街のおにぎり屋「たちばな」だった。そこで信也は店主の香(坂本冬美)と出会う。香は亡くなった信也の姉にそっくりだった。

 信也が他人に心を開かない理由は過去にあった。15歳の時に東日本大震災で両親をなくし、育ててくれた一回り上の姉は2年前に病死。それ以来、自分はひとりぼっちだと感じるようになった。香や常連客との交流を通じて信也は少しずつ心を開いていく。最初は他愛もない会話。声優のオーディションに落ちた松本(仲野太賀)に非難され、偶然、香に姉のことを知られて狼狽し、居場所をなくしてしまうが、検針先の家で再会した千秋(上戸彩)の出産に立ち会ったことで、堅くこわばっていた感情が堰を切ったように流れ出した。

 カウンターに座り、信也はおもむろに口を開く。語られたのは3.11とその後の日々で、誰にも話せなかった思いをぽつぽつと口にし始めた。「俺はいつもと同じように『行ってきます』って言って家を出たんです。だけど『ただいま』は言えなかった」。震災の記憶に蓋をしたまま、残された姉弟は東京で暮らし始めた。2人きりの生活で、働いて大学を出してくれた姉は、これからという時に倒れて帰らぬ人となった。ひとりぼっちだと思っていたが、そんな信也に千秋の出産は「人って1人で生まれてくるんじゃないんだ」と気付かせてくれた。

 信也が「たちばな」の人々と出会い、笑顔を見せるまで約15分。胸の内をさらけ出すまでおおよそ放送時間の半分を用いて内面の変化を描いたが、ここから視点を変えて香の人生にも迫っていく。香も誰にも言えない過去を背負っており、繁盛する「たちばな」にも不幸の影が忍び寄っていた。聡美(一路真輝)の身体に病気が進行しており、香に黙って仕事を続けていた聡美は手術をしないと言い張る。「放っておいて。私が決めることなの」と突き放すのは香に心配をかけたくないからで、ここにもひとりぼっちの気配はある。香は聡美の手を取り、自分が支えると寄り添う。

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