放送権が配信へ移行する流れが加速? GG賞、SAG賞、アカデミー賞にみる賞レースの未来

 映画やドラマの賞番組が配信サービスによって世界配信される流れは、エンターテインメント界で起きているグローバル化と同じ軌道にある。ゴールデングローブ賞受賞作品のほとんどが日本公開済み、もしくは公開が決定していて、アメリカのテレビ番組賞であるエミー賞候補作品のほぼ全てが日本でも観られ、その多くはアメリカと同日に世界配信されている今、賞レースだけがアメリカのローカル放送局に留まるのは時代を逆行している。ここ数年、アワードショー番組の視聴率が振るわない理由は、視聴者が長丁場に耐えられずSNSで結果を知れば十分だと考えているからと言われている。すでに興味を失った視聴者を取り戻すべく骨を折るより、新しい市場を広げていく施策は、フロンティアスピリットに根付くアメリカ的な発想だと言える。

 そしてもう一つ重要な数値は、視聴率ではなくSNSでのエンゲージメントレート。昨年、ウィル・スミスとクリス・ロックの一件を生中継してしまったアカデミー賞は視聴率で言うと過去2番目に低い数値だったが、SNSでのエンゲージメントは2270万件のインタラクションがあり、テレビ放送開始以来最多、2021年の950万件の2倍以上となったという。Facebook、Twitter、YouTubeでのビデオクリップ再生回数も1600万回を超え(2022年3月29日の数値)、記録的な数字だった。(※2)SNSには国境がなく、ゴールデングローブ賞で『RRR』(S・S・ラージャマウリ監督)が歌曲賞を受賞すれば日本でもトレンド入りし、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(ダニエルズ監督)でミシェル・ヨーが主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した瞬間、共演者のジェイミー・リー・カーティスが歓喜の雄叫びを上げる姿はバイラルとなり、その写真をTシャツにプリントする騒ぎにまでなった。

 また、オースティン・バトラーが『エルヴィス』の演技で映画部門の主演男優賞(ドラマ部門)を受賞し、彼を祝福する姿を目撃した2日後に心臓発作で亡くなったリサ・マリー・プレスリーの悲しいニュースも多く拡散された。賞レースの結果やニュースが世界規模でシェアされると、それらの作品を配給する映画会社やストリーミングサービスの世界キャンペーンとなる。つまり、市場を世界に広げることで、賞レースの放送(配信)とコンテンツを提供する映画会社やストリーミングサービスにとっても、win winになるのだ。

リサ・マリー・プレスリーの肩を抱くオースティン・バトラー(Stewart Cook for the HFPA)

 まずは2月26日、NetflixのYouTubeチャンネルでライブ配信される全米映画俳優協会賞授賞式が、映画賞の未来を占う試金石となる。俳優たちが仲間を讃える賞で、ゴールデングローブ賞のようなボールルーム形式で行われる賞は、受賞発表の合間に映る俳優たちの自然体な姿も楽しい。この賞を世界中で共有できるのは、いち視聴者、いちエンタメファンとして非常に喜ばしい動きだ。

参照

※1. https://www.latimes.com/entertainment-arts/awards/story/2023-01-09/ranking-awards-shows-oscars-golden-globes
※2. https://apnews.com/article/march-madness-oscars-will-smith-chris-rock-entertainment-dff89903b59e66c4dde57a31116b3ba3

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