『ホイットニー・ヒューストン』にみる、音楽伝記映画製作のハードルの高さと課題
その原因は、製作サイドに身内を入れ過ぎたからだろう。あくまでヒューストンを綺麗な存在として見せたかったという意識が溢れているのだが、実際の結末がそうではないため、着地点が模索しきれていなかったように思えてならない。『エブリシング』(2017年)や『フォトグラフ』(2020年)など、重圧な人間ドラマを得意とするステラ・メギーを降板させてケイシー・レモンズを監督に抜擢したことも、テイストが大きく変わった理由のひとつだろう。
つまり、伝記映画を作ろうとすると、歌声を再現できる俳優が見つかるかという問題もあるが、それと同時に、どうしても楽曲の使用が必要となってきて、権利を持つのが身内であった場合、身内を製作に入れるしかなくなってくる。顔色を窺いながら制作していくことになると、どうしても暗部は描き辛い。その結果、中途半端になってしまうことが多いのだ。
映像技術や音響システムの進歩によって、アーティスト本人の音源とシンクロさせることに違和感がなくなり、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)も成功を収めたことで、アーティストの伝記映画化が圧倒的に増えたし、これからもマイケル・ジャクソンやマドンナの伝記映画も待機中だが、波乱万丈なアーティストであればあるほど、何を描くか、どこを切り取るかが重要になってきてしまい、すごく評価されたというような成功例は実はあまりないのだ。
とは言っても、今作の楽曲の構成は見事の一言。1991年のスーパーボウルでの国家独唱の臨場感や、1994年のアメリカン・ミュージック・アワードで歌った、『ドリームガールズ』の楽曲「And I Am Telling You I’m Not Going」のカバーで締めくくるというのは、なかなか憎い演出だ。
ホイットニー・ヒューストンというアーティストを熟知しているケイシー・レモンズだからこその演出の数々が目を惹くだけに、思い切ってエンターテインメントに振り切ってしまった方が良かったとは思いつつも、いろいろと規制があった中でなかなか健闘したのではないだろうか。
■公開情報
『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
全国公開中
出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース
監督:ケイシー・レモンズ
脚本:アンソニー・マクカーテン
配給:ソニー・ピクチャーズ
公式Twitter:https://twitter.com/SonyPicsEiga
公式Instagram:https://www.instagram.com/sonypicseiga/
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