岩田剛典、“幸せの定義”を考え直すドラマ『一橋桐子の犯罪日記』を語る

インタビューコメント全文

ーー撮影を全て終えての感想や今の気持ちについて。

岩田:本当、あっという間の撮影でしたね。凝縮されたような撮影期間で。また、とにかく暑い中での撮影でしたので無事撮り終えてホッとしました。屋上のシーンがあるのですが、とけるような暑さでした。あとはやっぱり主演の松坂さんとのお芝居が楽しかったです。やっぱり松坂さんの持つ、包み込むような温かさというか、そういったものに自分も大船に乗ったつもりで全力でやらせて頂いた、そういう期間でしたね。

ーー演じる久遠はどんな人物?

岩田:まずはパッと見のビジュアルですね。普段と全然違うので、そこはすごく新鮮に感じていただけるのではと思います。役柄も、これまで演じてきたものと違うイメージなので、ファンの方にも楽しんでもらえるんじゃないかと。久遠は主人公にとって、“犯罪計画のアドバイザー”的な感じかと思うのですが、大きな影響を与える人物だったので、とてもやりがいのある役柄でした。見た目はワイルドですし、もともと刑務所に入っていた過去があったりとか、ちょっと特殊ですよね。あとインテリな面もあって、〇〇〇(ぜひ本編でチェックを!)を目指していたとか。そこのバランス感はかなり特殊な人物だなとは思いつつも、人に対しての向き合い方がちょっと不器用な感じだったり、人間味のある、すごく普通の人だなとも思います。

ーー久遠をそういう入りから見て行くと、変わっていく?

岩田:最初は素性がわからないというストーリーでの立ち位置で進んでいくのですが、だんだん桐子に心を開いていきますし、その中でちょっとずつ人間性が見えてキャラクターになっていくということですよね。順撮りではなかったので変わるきっかけだけこのシーンだなと決めて、そこでの前後の芝居を意識しながら変えるという感じでした。

ーーこのドラマのオファーが来た時の気持ちは?

岩田:トリッキーなストーリーだなと思いましたね。まず脚本の面白さにひかれました。しかもそれを松坂慶子さんが演じられるというので、ぜひ参加したいなと思えた企画でした。

ーー脚本の面白さでいうと例えばどんなところが?

岩田:親友を亡くしたお年を召した方が、残りの後生をどういう風に過ごしていくのか、また残された時間が限られた中での“幸せの在り方”だったりとか。今回の作品のテーマはある意味、日本における社会問題でもあると思います。高齢化社会においてどのように有意義に時間を使って、人それぞれの幸せをどういう風に見出していくのか、登場人物の複雑な絡み合いでそれを表現していくのだなと思いました。

ーー主人公「一橋桐子」の印象は?

岩田:優柔不断なところがあって弱気な人間像ですよね、最初は。ただ人々との出会いや事件を繰り返す中で、自分の意見を強く持つことができたり、それを行動に移せたりと、成長日記みたいな部分も視聴者に感じていただける主人公像だと思いました。それに対して周りの登場人物はみんなほっとけなくなるという、不思議な魅力のある主人公像ですね。特殊なスキルはないけれども、マンガの主人公のような感じで、味方がどんどん増えて行くような“アットホームな群像劇”とも言えるんじゃないですかね。

ーー主人公は70歳ですが、岩田さんの中でも共感するところは?

岩田:まだ自分が70歳になったときのことは想像できていないですけれど、きっと年代それぞれによって生きるモチベーション、生活のモチベーションって変わってきていると思うんですよね。自分が10代の頃とは今違うモチベーションで生活してると思いますし。“今を生きる”というとかっこつけた言い方になりますが、今を一瞬一瞬紡いでいくことが、未来につながるかなというマインドで生活しています。70くらいになったら自分のやりたいこともある程度やりきって、ある程度いろんな景色をみて、いろんな人と出会って、そしてこの先自分の人生何を残していくか。これって普遍的なもので、誰しもがぶちあたる問題だと思うんですよね。今回の作品を通して、結局“人のために生きていることが幸せになるのかな”ということを感じました。

ーー共演した松坂慶子さんの印象について教えてください。

岩田:声が毎日心地よいですね。普段とお芝居されている姿とあまりお変わりないのではと思うくらい、ナチュラルに桐子を演じられています。僕はすごくやりやすいです。初日の段階ですごく息の合うシーンが作れたので、勝手ながら手ごたえを感じていましたし、やっぱり大先輩とこうやってたくさんご一緒させていただけるシーンが多いと嬉しいです。松坂さんは日頃から身体を鍛えてらっしゃるとおっしゃっていて、ずっと姿勢がすばらしくいいんですよ。現場ではジムの話とかの話をしました。疲れたところも見せずぴんぴんしてるので、尊敬しかないですよね。弱音吐いてられないなと思わされるような方だと思います。

ーー隠れ闇金を営む寺田役・宇崎竜童さんは「岩田君とは初対面だが、なんだか親近感をもった」とコメントされてましたね。

岩田:“親近感”と言って頂けたのは、おそらく音楽業界とお芝居の畑と両方知っているというか、両方通ってきてるみたいなことなのかなと思います。ダンディーで、すごく気さくな方ですよね。場が和みましたし、毎回ドーナツなどの差し入れを持ってこられていたんですよ。飾らない方だし、普通にしててもやっぱりかっこいい。宇崎さんと対立するシーンがあるのですが、すごく楽しんで、思い切って演技ができて、良いシーンになったなと思っていますし、ご一緒できて嬉しかったですね。

ーードラマの見どころについて教えてください。

岩田:一言でまとめるのは難しいくらいに、色々な見どころがあるドラマだと思うのですが、本当に現代の日本の社会が抱えるような、人それぞれの悩みだったり、苦しみみたいなものをコミカルに描いている作品だと思いますし、人それぞれの“幸せの定義”を改めてこの作品を通じて考え直すことができると思います。でも基本コメディだと思うので、登場人物それぞれの濃いキャラクター像を楽しんでいただける、見ごたえのある作品になっています。1話をご覧いただければ、『最終話はどんな結末になるんだろう』とその後も毎週楽しみにご覧いただけると思います。

ーー岩田さんにとって、日々のモチベーションを高める“やる気の源”というのは何かありますか?

岩田:好きなことをお仕事にさせてもらってると思ってるので、あんまりやる気がなくなったことって、そんなにないんですね。でも“息抜き”とかは大事にしてますね。こうした(芸能の)お仕事で、目まぐるしく過ごさせていただいてるので、心の休息だったりとか。体力的な面もそうですし、どこかリフレッシュしたりする時間がないと自分の中でバランスが取れないなというのを、長年やってきて感じてますので。ちょっと外の空気吸ってみたり、ちょっとお酒飲んでみたり、そういう他愛もないことかもしれないんですけど、リフレッシュの時間は大切にするようにしています。

ーーこのドラマの主人公は「犯罪計画を企てる」という大きなことを始めますが、岩田さんは最近始めた大きなことはありますか?

岩田:昨年ソロ名義でアーティストデビューさせて頂きまして、11年目にして。それはだいぶ遅まきながら、新しいことにチャレンジする姿勢っていうのを提示できてる活動になっているなとも思います。数年前の自分に『まさか自分が歌うことになるとは』…というのを伝えたいです(笑)。

ーー何かきっかけがあったのですか?

岩田:長年応援してくださってるファンの方々に、一つの恩返しのプロジェクトという意味あいがあって。自分の伝えたいメッセージだったりとか、歌を届けることで元気になってもらったりとか。自分が始めたことによって、ライブやイベントでファンの皆さんと集まる空間を作ることができるというのが、自分の中で大きなことだなと感じてプロジェクトを始めました。今回のドラマに出演させていただいて、初めて自分を知る方もたくさんいらっしゃると思いますし、そこからより知って頂く方法として、自分のソロの場を作りたかったっていうのは、1個ありましたね。

ーーすごくファンの方々を大切にされている印象を受けました。

岩田:そうですね。どこまでいっても、ファンの方ありきのお仕事だったりするので。どんなに技術があろうが、見ていただけないということには僕らの商売は始まらない部分がありますので、本当に感謝をしてますね。ここまで来させてもらったことに対してもそうです。

ーー「デビュー10年を節目にして初めて歌を歌う」ということも、非常に勇気がいることだと思います。

岩田:やはりこれだけ世の中に素敵なアーティストの皆さんがいる中で、自分に何ができるのかと思ったのですが、でも自分が今まで歩いてきた道のりというのは、自分でしかやっぱり語れないと思うので。そういった思いを歌詞に落とし込んで、それを世に発信することができたらなと思いました。実際にやってみると『あ、自分はこんなことをもっと世の中に発信したかったんだな』と、改めて自分の内面を知ったというか。そういった意味で、自分への刺激にもなりましたね。

ーードラマの主人公・一橋桐子さんも、一歩を踏み出すことで大きく変わっていきます。

岩田:そうですね。踏み出してみることで、向き不向きも、好き嫌いもそうかもしれないし、やってみないと気づかないことってあるんだなっていうのはすごく感じますね。僕もやってみて『より何かを求めていく自分』というものに出会えたので、あぁ好きだったんだなって気づけたというか、それはすごく感じてますね。

ーー今回の役柄は“パチンコ店のパートリーダー”の役ですが、岩田さんは、リーダーに必要なことはどんなことだと思いますか?

岩田:リーダーは、圧倒的に人望だと思いますね。能力自体はそんなに高くなくていいと思っています。それを支えるのは周りの役目なんで、リーダーは圧倒的に人望。人望がないと、誰もやっぱり付いていけないですし、そこに尽きるかなと。あとはやはり決断ができるかどうかというのも1つありますね。それがいい決断であれ、悪い決断であれ、決断ができない人というのは、やはりリーダーも向いてないと思います。

ーー久遠はある目標を叶えるために、必死に勉強をしてきたという過去があります。岩田さんも、幼いころからとても勉強されてきたと伺いました。入学試験を控えた学生、もしくは大人になって新たな勉強をされている方々に、アドバイスがあれば。

岩田:今の子たちは、僕が受験生だった頃と比べてどんな勉強スタイルになっているんでしょうかね。もっと便利になっていそうな気がしますけれども。『継続は力なり』という言葉がありますけど、結局そこに尽きるのかなって思いますね。受験なんかは特に。費やした時間と費やした労力が、そのまま比例して自分の成長、成績の上昇に繋がると思っているんで。大変だし、つらいし、みんな勉強嫌だって誰しもが思うことだと思うのですが、人生の中で、そこまで本気になって頑張ることって、あと何回かしかないと思うから。「たかが受験」と思わず、意外とそこで費やした時間と労力っていうのは、自分の自信にも繋がるし、あとはつらいことがあった時とかの支えにもなる時間に変わると思うので。終わった後じゃないと、こういう風に喋れないかもしれないけど。今は大変でしょうから。人生に何度かしかない大勝負だと思って、歯食いしばりながらやるしかないとは思うんです。だから、先ほど言ったように、うまく息抜きだったりとか、張り詰めすぎないように、バランスだけ取りながら頑張ってもらいたいですね。大変なのは、多分いつの時代も一緒だと思うんで、受験なんかは特に。

ーー人生においても大切な言葉のように感じます。

岩田:人生は浮き沈みがありますよね。この先ももちろん良いことばかりだけではないし、悪い時期も含めて人生だと思っています。そんな中で、良い時期をどれだけアイデアや努力でキープしていけるか、というところも重要だと思っていて、『継続は力なり』が実は一番大切で、かつ大変だということが、この業界に入ってから強く感じるところなんですね。うまくいったことをキープし続けることって、一番難しいので。それを維持し続けられるように、努力し続けていきたいなと思いますね。

ーー芸能界でのお仕事を通して、学んだことや気づいたことは、どんなことがありますか?

岩田:芸能界は、間違いなく“時代”を相手にしないといけない職業でもあると思っていて。同じこと、同じクオリティのものでも、違うタイミングで出すと同じ結果には結び付かなかったりする職業だと思っているんですね。やはり、その時代に合わせて、ニーズをちゃんとキャッチしていかないといけないですし、問題ないだろうと思って出したものでも、それが自分たちが想像していた評価より下回って返ってくることも多々あったりと、予想しづらい、想定しづらい職業だなと思っています。移り変わっていく時代を相手にしないといけない職業の中で、想いの部分だけは、やはりブレずにもっていることが、最終的には自分を支えてくれるのかなと感じています。一つ自分の軸、ショウビズが好きだったりとか、エンタメが好きだったりみたいな根本的な部分。人を元気にしたいとか、そういう部分は忘れずに情熱を持ち続けること。最終的には、それしかないのかなと感じますね。

ーー岩田さんにとっての今の軸という部分はなんでしょうか。

岩田:僕は好きでこのお仕事をやらせて頂いていますので。好きなことで生活できて幸せなんですね。そして、ファンの方々と接する機会の多い職業でもありますので、やはり喜んで頂いたりだとか、そういった声を感じられた瞬間って、とても嬉しい気持ちになりますし。自分の社会的な存在意義というか、表に出る人間のある意味、使命というか。ここまでやらせてもらえたことも、本当に奇跡みたいなことだと思っていますが、せめてもの恩返しみたいなところで。自分を信じて応援してきてくれた方々が、悲しい思いして欲しくないなって自分は思っています。そうした思いを、これからもアーティストとして届けたいなという思いもありますし。俳優業も、感動を扱う職業だと思うので、心を動かされたりとか、人生のきっかけの一つみたいなことを、生むことができていたらと思います。この世界に憧れて入った人間として、やっぱり夢をもらった立場から、夢を与える側の立場になった人間の1人として、そこはちゃんと責任持ってやり遂げたいなという思いですね。

ーー岩田さんの実感がこもった、素晴らしい言葉だと思いました。

岩田:いえいえ。好感度上げたいわけじゃないですけど(笑)。

■放送情報
土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』
NHK総合にて、10月8日(土)より毎週土曜22:00~22:49放送(全5話)
出演:松坂慶子、岩田剛典、長澤樹、片桐はいり、宇崎竜童、木村多江、由紀さおり、草刈正雄ほか
原作:原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』
脚本:ふじきみつ彦
音楽:長谷川智樹
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、清水拓哉(NHK)
プロデューサー:宇佐川隆史(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、黛りんたろう、加地源一郎
写真提供=NHK

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