『プリズム』は目にも心にも優しいドラマに 杉咲花×藤原季節がさまざまな“愛”の形を知る

 杉咲花が主演を務める『プリズム』(NHK総合)は、目にも心にも優しいドラマだ。

 本作を手がけるのは、ラブストーリーの名手として知られる脚本家・浅野妙子。2022年4月期の『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系/以下『恋マジ』)では、恋に本気になれない6人の男女が、人生最大の本気の恋に落ちていくさまを刺激的に描いた浅野だが、本作では、何に対しても本気になれない20代女性を主人公に据えた穏やかな愛の物語を紡いでいる。

 物語は主人公・皐月(杉咲花)の作るテラリウムが、ガーデンデザイナーとして活躍する陸(藤原季節)の目に留まるところから展開される。皐月は陸の手がけるリガーデンプロジェクトに参加。そこに新たに加わったガーデナーの悠磨(森山未來)との出会いもあり、彼女は植物と向き合う仕事にやりがいを見出していくとともに、陸と恋に落ちていく。

 皐月が何に対しても本気になれない理由。それは、幼い頃に父・耕太郎(吉田栄作)の浮気が原因で両親が離婚したからだ。耕太郎はその後、浮気相手だった同性のパートナー・信爾(岡田義徳)と暮らし始め、母である梨沙子(若村麻由美)は「幸せだった家族の思い出も全ては偽りだった」と自分や皐月にも言い聞かせながら生きている。

 いつか傷つくくらいなら、最初から何にも本気にならない方がマシ。そう心を閉ざして自分を守る皐月の姿勢は、『恋マジ』に登場した男女のそれにも共通する。そんな皐月に起きた奇跡は、陸が仕事でもプライベートでも自分をパートナーに選んでくれたこと。

 魅力ある男性が突然目の前に現れて、自分を選んでくれる。一見誰もが憧れるシンデレラストーリーだが、ドラマは悠磨の登場により急展開を見せていく。第5話の時点でまだ皐月自身は知らないが、実は陸と悠磨はかつて、大学の講師と生徒という間柄でありながら愛し合っていた。その関係は学校でも問題視され、悠磨は陸の目の前から姿を消したが、陸の中ではまだ悠磨に対する思いは消えず燻っている。つまり、皐月は奇しくも母親と同じ運命を辿ることになるのだ。

 なかなかヘビーな内容だが、不思議と絶望感を感じさせない。それは光が差し込むと虹色に輝くプリズムのように、愛にも色んな形があり、陸の皐月に対する思いも複雑ではあれど、愛には変わらないことを教えてくれるから。

 特に第5話は、物語の根幹に迫る愛に関する言及が多数あった。耕太郎が心筋梗塞で倒れたことで、病院に駆けつけた信爾と梨沙子が初対面。梨沙子は信爾との会話の中で、耕太郎が仕方なく自分や皐月と暮らしていたのではなく、心から幸せに思っていたことを知る。

 「私はそういう幸せを彼にはあげられない。ずっとあなたに嫉妬してました」と本音を吐露する信爾。梨沙子からの「今はかわいそうな女を見て、勝ち誇った気分?」という問いに、彼は「あなたはかわいそうには見えない」と答える。

 そんな元妻と現パートナーである2人の耕太郎への愛が、静かにも激しくぶつかり合うシーンは凄まじかった。自分にはあげられないものがあると分かりながら、そばにい続けるのも、相手に裏切られたと憎み続けるのも体力がいるし、愛がなければできないこと。耕太郎も耕太郎で、結果的に信爾と生きる道を選んだが、梨沙子と皐月にも違う形の愛を向けていたことが分かった。

 3人の思いが交錯する様を目の当たりにし、陸は悠磨との過去を皐月に打ち明けるべきか否かについて悩み始める。それによって皐月に何か重いものを背負わせてしまうのではないか。いきつけのバーのママ・北斗(飯田基祐)の「相手の見せたいものを見せるのも愛情の一つ」「背負うのもしんどいけど、背負わせてもらえないのも寂しい」という言葉を受け、誰かを大切にするとはどういうことかを真剣に考える陸。だが、その行為そのものがもはや愛であると言えるのではないだろうか。

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