『ファイナル アカウント』田原総一朗によるコメント映像公開 15名の著名人コメントも

 8月5日に公開されるドキュメンタリー映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』の著名人コメントが公開された。

 ヒトラー率いるナチス支配下のドイツ“第三帝国”が犯した人類史上最悪の戦争犯罪、ホロコースト。本作は、武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人まで第三帝国に参加したドイツ人高齢者たちにインタビューを実施し、加害者側の証言と当時のアーカイブ映像を記録したドキュメンタリーだ。

 メガホンを取ったのは、イギリス出身のドキュメンタリー監督、ルーク・ホランド。ホランド監督は、10代になって初めて、母がウィーンからのユダヤ人難民で、祖父母はホロコーストで殺害されたというルーツを知った。その後、ホランド監督は2008年から10年の歳月をかけて250以上のインタビューを行い、本作完成直後の2020年6月、71歳で癌で亡くなった。

映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』田原総一朗によるコメント映像

 あわせて、本作のトークイベントにも登壇したジャーナリストの田原総一朗によるコメント映像が公開された。コメント映像で田原は「僕もね、日本が太平洋戦争に敗れたのは小学校五年生の夏休みですからね。太平洋戦争は正しい戦争だと思い込んでいた。ところが、8月に先生やマスコミの言うことが180度変わった。どうも偉い人の言うことは信用できないなと、マスコミも信用できないなと」と語り、ジャーナリストを目指すきっかけになったと明かした。

 さらに、「この映画も含めて、戦争を知っている世代の表現を若い人たちに聞いて学んで、そして頑張ってほしい。というのは表現している人たちも、僕も含めてもう数年で死ぬ訳ね。これからの10年20年を支えるのは若い世代ですから、本当に頑張ってほしい」と映画をアピールしつつ、若い世代へのエールを送った。

 また、映画評論家やドイツ研究者など15名から、「戦下の2022年に放たれた爆弾のような力作」、「究極の作品だ」、「見逃してはいけない!」、「翻訳をする手が震えた」といったコメントが到着した。

コメント

大木毅(現代史家)

「普通の」ドイツ人がいかにナチになり、異常が日常となっていったか。
それは戦後いかに認識されたか。
重い記憶を体験者自らに語らせた稀有のドキュメンタリーである。

大久保義信(月刊『軍事研究』副編集長)

怪物よりも危険なのは何も疑うことなく信じ込む普通の人間だ―
映画冒頭のこの警句は、メディア情報に踊り、レッテル貼りに狂奔し、他者を叩いて愉悦する今の日本人が、彼らと同じである事実を突き付けてくる。

大谷昭宏(ジャーナリスト)

国家は10年あれば変えられる―祖父母をホロコーストで殺害されたルーク・ホランド監督が、ヒットラー・チルドレンから聞き取った250の証言は、いまは亡き監督が21世紀の私たちにおくった「世界遺産」である。

小野寺拓也(ドイツ現代史研究者/東京外国語大学大学院 准教授)

答えを提示する作品ではない。問いを投げ続ける作品である。
罪とは何か、責任とは何か。明確な答えが出る問いではない。
だが、人びとが広い視点でものを考えるのを止めたときに何が起こったのかを、
この映画は見事にえぐり出している。

佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)

第二次世界大戦から七十七年。
あの戦争はついに歴史の彼方へと消え去りつつあり、当事者がリアルに証言する映画はもう出てこないだろう。
まさにわたしたちの「同時代」の最後を見届ける作品なのだ。

渋谷哲也(日本大学文理学部教授/ドイツ映画研究者)

当事者たちの間で「沈黙」に隠された意味は自明だった。
だがそれは次世代に何も伝えないだろう。
「沈黙」されたものは忘却されるどころか禍々しく再び頭をもたげている。
そんな危うい時代に私たちは生きている

相馬学(フリーライター)

戦争という国家的な罪を、国民はどう受け止めるのか? 
歴史に刻まれた蛮行を含め、人はその責任とどう向き合うべきか? 
戦下の2022年に放たれた爆弾のような力作。
答は観客ひとりひとりの中にある。

藤えりか(朝日新聞記者)

ヒトラーだけが悪だったのか―。
ドイツでは近年、この問いに取り組む映画人が増えている。
「知らなかった」「自分に罪はない」と言い募る欺瞞を容赦なく炙り出すこのドキュメンタリーは、その究極の作品だ。自分ならどうするか。
戦争や虐殺、いじめなどが起きそうになるたび、この証言集を考えたい。

並木均(ノンフィクション翻訳者)

今でもヒトラーを支持する元親衛隊員が登場したのは想定内。
衝撃的なのは、過去を悔いる別の元親衛隊員に対して、学生が「ドイツ人としての名誉も捨てたのか」と詰問する場面だ。
「過去の克服」は、なんと難しいことか。

初見基(近現代ドイツ文学・社会思想研究者/日本大学教授)

「ホロコーストなど私は知らなかった」「直接手を下したわけでない」
「命令に従ったまでで仕方なかった」、国家による組織犯罪の〈責任〉は誰がどのように負うのか。
この問いは私たちにもつきつけられている。

古舘寛治(俳優)

全体主義とは何か? それが戦争をする時には個々の行動に責任はあるのか? ないのか? 
全体に責任を取らせることは可能なのか…?
そして我が身を振り返る。
支配階級が責任を取らない国で戦争が起きたらどうなるか? 想像すると恐ろしい。

マライ・メントライン(ドイツ第2テレビプロデューサー)

証言者たちが「はい、これで打ち止め!」と力を込めて黙る瞬間がある。
そこで続くべき言葉こそ真の本音なのだ。
終盤に向かうにつれ、その沈黙の壁を破り何かが次々とこぼれ出てゆく。
そこがキモだ。見逃してはいけない!

安田菜津紀(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)

「生まれながらの犯罪者はいない。作られるのだ」。
映画中で語られた、この言葉の重みをかみしめる。
それは、「失業とインフレが大変な時期」だったという。
ここで映し出しているのは、果たして「過去」なのだろうか。

柳原伸洋(ドイツ・ヨーロッパ近現代史研究者/東京女子大学准教授)

楽しかった、知らなかった、私は関係ない……。
少年少女の心を捉えた「ナチズムの魅力」と、少年少女の体に刻まれた「ナチズムの教育」に迫った作品。
私なら、抗うことができただろうか。

吉川美奈子(ドイツ映画字幕翻訳者)

ホロコーストで身内を失った監督が、自らの命を削りながらまとめ上げた証言の数々。
ごく普通の善良な市民が口にする衝撃的な内容に、翻訳をする手が震えた。
誰もが加害者になり得るということなのか。

■公開情報
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』
8月5日(金)TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
監督・撮影:ルーク・ホランド
製作:ジョン・バトセック、ルーク・ホランド、リーテ・オード
製作総指揮:ジェフ・スコール、ダイアン・ワイアーマン、アンドリュー・ラーマン、クレア・アギラール
アソシエイト・プロデューサー:サム・ポープ
編集:ステファン・ロノヴィッチ
追加編集:サム・ポープ、バーバラ・ゾーセル
音楽監修:リズ・ギャラチャー
2020年/アメリカ=イギリス/ドイツ語/94分/カラー(一部モノクロ)/ビスタ
配給:パルコ、ユニバーサル映画
宣伝:若壮房
(c)2021 Focus Features LLC.
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/finalaccount/

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