『ちむどんどん』中原中也の詩に託した母と子の絆 “ニーニー”賢秀の寅さん化が進行?

 和彦(宮沢氷魚)との結婚を認めてもらおうと、重子(鈴木保奈美)をあまゆに招待した暢子(黒島結菜)だったが、そこにやってきたのは招かれざる客の賢秀(竜星涼)だった。『ちむどんどん』(NHK総合)第79話で物音に気付いた暢子は、ラジオの実況を聞きながらごちそうに手を付ける賢秀を発見する。

 「このレースに俺のプライドと兄貴としての存在価値が全てかかってるわけよ!」と叫ぶ賢秀は、なけなしの金を競馬につぎ込んでいる模様。しかし、ヤマを張ったイチバンボシボーイは敗れ、賢秀の目論見はあえなく散った。

 ちょうどその時、和彦に連れられた重子があまゆに来店する。ギャンブルに負けて虫の居所の悪い賢秀は、自身に向けられた重子の冷たい視線に気づき、追い払うような仕草をするが、和彦の母親であると知らされ、あわてて重子に挨拶する。それを見た重子は「ごきげんよう」と言い残して出て行く。暢子のお弁当作戦や和彦の必死のとりなしが通じてか、あまゆに足を運んだ重子。わずかに心を開きかけていたところで、賢秀の失態によって苦労が水の泡になってしまった。

 重子が結婚に反対している理由は、和彦と暢子の「住む世界が違う」ため。大学教授の史彦(戸次重幸)と名家の生まれである重子を両親に持つ和彦には、それなりの家柄の相手がふさわしい、というのが重子の言い分。家事や育児を妻の仕事と考える重子は、結婚しても暢子に料理人を続けてほしい和彦と真っ向から意見が対立する。

 「僕は母さんみたいな奥さんがほしいわけじゃない。むしろそんな女性は嫌だ」と発する和彦に、「母さんの人生は否定するのね」と言って席を立つ重子。考え方の違いに加えて、和彦と重子の間には感情的なわだかまりもあった。そのことを象徴していたのが、中盤で中原中也の詩を通して繰り広げられた一連のシーンだ。

 家政婦の波子(円城寺あや)との会話で、愛情をかけて育てた親の気持ちが子に理解されないむなしさを嘆く重子は、一人になって中也の「修羅街輓歌」を口ずさむ。これは争いの絶えない世界に生きる悲しみを詠ったものだ。続いて東洋新聞社にいる和彦が、遠い日の記憶を探るように「別離」の一節を朗読。ふたたび重子の部屋に戻り、「子守唄よ」の冒頭部分である〈母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ/母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ/然しその声は、どうなるのだらう?〉を読み上げると、そのまま和彦が〈たしかにその声は、海越えてゆくだらう?/暗い海を、船もゐる夜の海を〉と引き継ぐ。

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