仕事に追われ、疲れ果て、時間に追われている感覚を味わい続け、考えることが常に山ほどあるから“考えられない”。そんな悩みを持つ人に、この映画は優しく寄り添い大切なことを思い出させてくれる。劇中にジョニーを困らせた少年ジェシーは、そんな人にも煩わしいくらい質問責めをするだろう。しかし、質問をされて初めて自分の気持ちや意見を考え、それに向き合うことができるということもあるものだ。

　そして“聞かれるためには、聞くことが大事”だということも、ジェシーとジョニーの関係性を通して教えてくれる。相手に心を開かせ、気持ちを曝け出してもらうためには「聞いているよ」という姿勢を取らなくてはならない。そして、誰かの言葉を聞く中で、自分の考えが導き出されることもある。少年少女たちのインタビューの問いに対して我々が何かを思うこと、「自分だったらどう答えるかな」と考えることが、まさにその証明だ。私たちは自分自身を知るために、誰かを知り続けなければいけない。こうして、対話を絶やさないことが、大切なのである。

　映画のタイトルにもなっている「カモン カモン（C’MON,C’MON）」とは、劇中でジェシーが言うセリフだ。その日本語訳の秀逸さには脱帽。この意味を確かめたい方は映画館へ。誰かと観にいくのもいいけど、一人で観に行って、観終わった後に少し自分の考えや気持ちに向きあってほしいと思う映画だ。何を大事にしたいのか、自分は今日何を気に入って何を気に入らなかったか。大人とか子供とか忘れて、一人の人間として暗い映画館を出た先の景色を見つめてほしい。

■公開情報
『カモン カモン』
全国公開中
監督・脚本：マイク・ミルズ
出演：ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング＝ホワイト
音楽：アーロン・デスナー、ブライス・デスナー（ザ・ナショナル）
配給：ハピネット ファントム・スタジオ
2021年／アメリカ／108分／ビスタ／5.1ch／モノクロ／原題：C’MON C’MON／日本語字幕：松浦美奈
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公式サイト：happinet-phantom.com/cmoncmon/
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