『エル プラネタ』が描く“現実と虚構” 全編モノクロで飾る崖っぷち母娘の現実逃避行

 プレスのインタビューで、監督は「正直なところ、私が何者なのか、私が何を意図しているのかを知らずに映画を楽しんでもらいたい」と答えているので、ここからは本作を観て、私のように監督に興味を持った人に読んでいただきましょう。

 本作の監督および脚本、プロデュース、衣装デザイン、主演を全て務めたアマリア・ウルマンは、2014年にInstagramとFacebookでのパフォーマンス・アート「Excellences & Perfections」で脚光を浴び、ミレニアル世代を象徴するアーティストとして以降はGucciのクリエイティブデジタルプロジェクトなどで活躍しています。本作には、監督自身の体験が盛り込まれているそうで、舞台でもあるスペインのヒホンは監督が幼少期に引っ越してきた街。夏に各地からやってきた観光客は季節が変わると去っていき、街は閑散とする。監督が見た当時の様子は劇中でも映し出されていて、人がまばらに歩き、閉まっている建物が街の寂しさを感じさせました。

 そして、劇中の母娘の貧困生活の中が、“微笑ましく見えてしまう瞬間があった”と思ったのも、監督本人の経験が、自身のユーモアと誠実さを持って注ぎ込まれているからこそなのでしょう。監督も母親とホームレス状態で飢えに苦しんだ経験があり、また、冒頭のシーンは同じ街で監督自身に起きた個人的な体験を元にしているそうです。

 2人から感じる危うさ、そして飾って生きる彼女たちのカッコよさをぜひ劇場で観てください。

■公開情報
『エル プラネタ』
全国公開中
監督・脚本:アマリア・ウルマン
出演:アマリア・ウルマン、アレ・ウルマン、チェン・ジョウほか
音楽:chicken
配給:シンカ
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