『最愛』吉高由里子に『すぱっち』江口のりこも 急増の社長ヒロインはドラマ界の鉱脈に?
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)や『リコカツ』(TBS系)、『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジテレビ系)や『レンアイ漫画家』(フジテレビ系)、『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』(読売テレビ・日本テレビ系)、『半径5メートル』(NHK総合)など、今年の春夏ドラマには、“編集者”を描く作品が乱立していた。その理由には、女性がバリバリ働く職場として描きやすいことに加え、コロナ禍の撮影の制限により、医療もの・刑事ものが作りにくかったことなどがあるだろう。
一方、そうした流れとは別に、働く女性を描くドラマで最近増えているのが、女性主人公が「社長」を務めているというパターンだ。
例えば、4月期の松たか子主演ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、以下『まめ夫』)や、7月期の比嘉愛未主演の『推しの王子様』(フジテレビ系)、そして10月期には江口のり子主演の『SUPER RICH』(フジテレビ系)と、吉高由里子主演の『最愛』(TBS系)がある。
これまでは普通の職業に従事する等身大の明るく元気な女性を描くドラマが割合的に多かった気がするのに、なぜ今、バリキャリや「社長」が主人公なのか。
“現代の社会的閉塞感”に与える贅沢さ
一つには、日本の経済の低調ぶりや社会的閉塞感、日々の苦しさが背景にあるだろう。貧しい時代だからこそエンタメに癒しを求める流れは、おそらくテレビ東京を筆頭とした深夜ドラマの隆盛につながっている。30~40分の深夜ドラマであれば、等身大の主人公のささやかな日常を描くのは楽しく、美しく、癒されるし、共感しやすい。しかし、それがゴールデン・プライム枠の1時間ドラマとなると、等身大の個の世界を掘り下げる作品では、どうしても冗長に感じられ、画的な貧しさが出てしまうのは否めない。
その点、「社長」がヒロインの場合、衣装もインテリア、小物類など、目に嬉しい華やかさがある。例えば『まめ夫』では、いとこの結婚式に参列したときのブルーの鮮やかなワンピースをはじめ、オレンジ色のジャージ、ピンクのケープブラウスやチェリープリントのシャツ、フローラルブラウス、花柄ガウン、ボタニカル柄のスカートなど、ポップでエレガントな衣装もまた、大きな魅力の一つだった。
こうしたファッションや音楽、映像などのセンスの良さ、贅沢さに惹かれる視聴者は多かった。それでいて、シャネルのかっちりしたスーツや、いわゆる“戦闘服”に身を包んだ従来の社長像とは異なる、個性的で自由で肩の力の抜けた自由でファッションには、新しい社長像を感じさせた。
そうした意味で『SUPER RICH』の江口のり子のバッチリメイクでドレスアップした際のオンの美しさにハッとした視聴者は多かったろう。
ただし、この2作に共通しているのは、貧しい世の中におとぎ話として提示する「持てる人々の豊かな暮らし」の話ではないことだ。なぜなら、どちらも「社長」になることを望んだわけではないからだ。