千之助は次の代に舞台を託す 『おちょやん』鶴亀新喜劇の旗揚げに詰まったそれぞれの思い
『おちょやん』(NHK総合)第19週「その名も、鶴亀新喜劇や」では、鶴亀新喜劇にとっての旗揚げ興行「お家はんと直どん」が上演となる。
この公演には様々な人の思いが詰まっている。道頓堀を再び芝居の街として復興し始めた大山(中村鴈治郎)、多くの人に笑顔を残してこの世を去っていった万太郎(板尾創路)、ヨシヲ(倉悠貴)にとびきりの喜劇を見せると約束していた千代(杉咲花)の思い。そして、千之助(星田英利)が書いた台本に手を入れてまで伝えたかった一平(成田凌)のこれからの時代を担う者たちが作り出す芝居だ。台本のキャストには寛治(前田旺志郎)や灯子(小西はる)、万歳(藤山扇治郎)の名も連なっている。
週のラストとなる第95話は、15分のオンエアのうち約6分がこの「お家はんと直どん」の劇中劇となる。大山が再建した新えびす座の舞台として実際に使用されたのはNHK大阪ホール、収録ではカットがかかることなく約15分間の演技が続いたのだという。
主演を務めたのは千代。かつて一座の主役を担っていた千之助の姿はそこにはない。セリフを忘れ、即興も出てこないーー万太郎に言われていた役者としての終わりを感じ、千之助は次の代に喜劇の舞台を託したのだった。
割れんばかりの拍手と柝の音が示すのは、道頓堀喜劇の新しい幕開け。自分がいない舞台を観終えた千之助は一座から退くことを心に決めていた。千之助は一平を「天海」と呼び、「お前のお父ちゃんにやっと義理果たせたわ」と告げる。一平も「あなたから貰たもんは何一つ無駄にはしません」と返す。それが「天海天海」という大きなたすきが、次の代へと受け渡った瞬間だったのかもしれない。