元KGB職員を起用した“リアル”な取り調べシーンが 『DAU. ナターシャ』本編映像公開

 2月27日に公開される『DAU. ナターシャ』より、本編映像が公開された。

 第70回ベルリン映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した本作は、いまや忘れられつつある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーによる「ソ連全体主義」の社会を再現した前代未聞のプロジェクトの映画化第1弾。

 本作では、秘密研究都市にあるカフェで働くウェイトレス、ナターシャの目を通し、観客は独裁の圧制のもとでたくましく生きる人々と、美しくも猥雑なソ連の秘密研究都市を体感していくことになる。そして、巨大な迷宮の入り口であると同時に、当時の政権や権力がいかに人々を抑圧し、統制したのか。その実態と構造を詳らかにし、その圧倒的な力に翻弄される人間の姿を生々しく捉えていく。

映画『DAU. ナターシャ』本編映像

 公開された本編映像は、スターリン体制下の秘密研究都市で繰り広げられる、ソ連全体主義の恐怖政治の象徴ともいえる秘密警察による取り調べシーンを捉えたもの。

 スターリン体制下の1952年、秘密研究所に併設されたカフェで責任者として働く主人公ナターシャは、ある夜、フランスから研究所に招かれていた高名な科学者リュックと一夜をともにする。全体主義の監視の目が光る牢獄のような職場で息の詰まる日々を送っていたナターシャにとってつかの間の幸せの時間だった。そんなある日、ナターシャは突然ソヴィエト国家保安委員会(当時の名称はMGB)の捜査官であるアジッポに連行されてしまう。映像では、アジッポがナターシャにこの取り調べの目的を告げる様子が描かれている。紳士的な雰囲気を持つアジッポのリードのもと、重々しくも穏やかに始まった取り調べだったが、この後、ナターシャには人間としての尊厳を傷つけられるほどの激しい尋問が待ち構える。

 スターリニズムの特徴のひとつといえるのが秘密警察の支配を背景とした恐怖政治だが、この場面に登場するアジッポ役のウラジーミル・アジッポは、実際にソ連の刑務所や拘置所で働いた後にKGB大佐となった経歴を持つ人物。「DAU」プロジェクトに出演するキャスト達は自身の経歴をもとにキャスティングされており、彼以外にも元KGB職員が多くキャスティングされている。

 フルジャノフスキー監督は、「実際のアジッポは厳しい尋問で知られていましたし、それが彼の仕事でした。私の家族はソヴィエト時代に常にKGBを恐れていて、彼らを嫌っていました。だから、元KGBの人々とのオーディションで彼らが非常に明確な名誉の概念を持っていることに私は驚きました。彼らはいろいろな意味で絶対的な悪を体現していますが、同時に道徳も持ち合わせており、それが彼らにとって重要なのです」と語る。

 フルジャノフスキー監督から700時間にも及ぶフッテージをもとに1本の作品に仕上げるための編集作業を託された共同監督のエカテリーナ・エルテリは、ナターシャとそれを演じたナターリヤ・ベレジナヤそれぞれに対して、「私は彼女を本当に愛しています。彼女のような女性はソヴィエトのいたるところにいたのです」と賛辞を送る。「外から見ると、彼女は敗者に見えるかもしれませんが、そうではありません。なぜなら、彼女はとても力強く、人生が彼女に与えるあらゆる状況を乗り越え、生き残り、そこにあるものを最大限に活用するからです。これは本当に勇敢だと思います」とその理由を語る。さらに「誇りを持って生き残ること、自分を失うことや諦めないこと。これは過小評価されている力だと思います。そしてこれは世界中の多くの女性をつなぐ力ではないかと思うのです」と本作に込めた想いを明かす。

 なお、『DAU. ナターシャ』公開初日である2月27日、シアター・イメージフォーラムでの3回目の上映終了後に、中継によるフルジャノフスキー監督のオンライントークショーが行われる予定だ。

■公開情報
『DAU. ナターシャ』
2月27日(土)より、シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・脚本:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ
出演:ナターリヤ・べレジナヤ、オリガ・シカバルニャ、ウラジーミル・アジッポ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
配給:トランスフォーマー
2020年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作/ロシア語/139分/ビスタ/カラー/5.1ch/原題:DAU. Natasha
(c)PHENOMEN FILMS 
公式サイト:www.transformer.co.jp/m/dau/ 
公式Twitter:@DAU_movie 
公式Instagram:@DAU_movie

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