『俺の家の話』は現代版『カラマーゾフの兄弟』? 長男・寿一の幸せはどこにあるのか
一方、現役世代の寿一は、辛い現実を忘れてしまうわけにはいかない。父親は車椅子で認知症だし、実家には現金がほとんどない。だから、Uber Eatsみたいな出前のバイトもしなければならないし、同時に次の家元だと認めてもらえるように能の猛特訓もしなければならない。さらに、息子は学習障害で小学校の生活がうまくいかず、別れた妻は月5万円かかるフリースクールに通わせたいと言う。介護、お家の再建、養育費とトリプルで責任がのしかかってくる状況は、タフな肉体を持つ寿一にとってもきついだろう。さらに、元妻には自宅に泊まらせるぐらい親しい恋人がいることも判明し、寿一自身の幸せはどこにあるのか見えないままだ。
希望があるのは、学校ではじっとしていられない息子の秀生(羽村仁成/ジャニーズJr.)が能に興味を示し、才能を発揮しはじめたこと。寿一が所属していた“さんたまプロレス”のメンバーが「いつでも戻ってこい」と温かい言葉をかけてくれること。第2話ラスト、そんな窮地にある寿一は、プロレスの代役の出演料10万円につられて家を空けてしまう。そして、ひとりにされた寿三郎はトイレまで歩いて行こうとして、廊下で倒れる。
もし、この物語が『カラマーゾフの兄弟』を下敷きにしているのなら、高齢化が進んだ現在を舞台にすると父殺しの物語になりえないところに違いが出てくるのかもしれない。今日(こんにち)では現役世代は親の介護という問題を引き受けていくしかない。次回予告で「死に方がわからないんですよ」とつぶやく寿三郎の寂しい表情が、さらなる物語の深化を予感させる。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS