『俺の家の話』は現代版『カラマーゾフの兄弟』? 長男・寿一の幸せはどこにあるのか
第1話で人物相関図が頭にインプットされてからの第2話は、ストーリーに集中して観られるので楽しいものなのだが、ちょっと気になってしまった。連続ドラマ『俺の家の話』(TBS系)の舞台となる観山家の家族構成は、人間国宝の能楽師・寿三郎(西田敏行)と帰ってきたプロレスラーの長男・寿一(長瀬智也)、次男の弁護士・踊介(永山絢斗)、塾講師をしている長女の舞(江口のりこ)。さらに、屋敷には芸養子の寿限無(桐谷健太)も同居し、兄弟たちがいがみ合う様子はどこかで見たような……と既視感を覚えてよく考えると、ロシアの文豪ドストフエスキーの代表作『カラマーゾフの兄弟』とかなり似ている。そう、寿三郎が地主である父フョードルで、寿一が退役軍人の長男ドミートリイのポジションなのだ。次男がインテリというのも合致しているし、キーパーソンとなる息子のような存在の寿限無も……。
そう考えると、寿三郎の介護ヘルパーにして“婚約者”のさくら(戸田恵梨香)は『カラマーゾフの兄弟』で父と長男の2人から思いを寄せられる妖艶な女性グルーシェンカなのか? 第2話では、さくらが金に困っている寿一に10万円を貸し(小説で貸すのは別の女性だが)、寿一は優しく美しい彼女にぼーっとしてしまうという場面があり、これはかなりカラマーゾフだ!と驚いた。もちろん140年前の小説なので著作権も切れており、元ネタにしても全く問題はなく、気になったのは「今後、父殺しの愛憎劇である『カラマーゾフの兄弟』みたいな展開になってしまうのか?」ということ。もし、本当にその現代日本版として描いているのなら、寿三郎がこの後、謎の死を遂げ、3兄弟や弟子に殺害容疑がかかるという展開になったりもするのだろうか?
そんなふうに予想もしてみたが、おそらく家族構成と人物設定だけのオマージュであるだろうから、いったん“父殺し”は頭の外に置いておこう。第2話では、第1話から「後妻業の女」と踊介たちから非難されていたさくらの本性が早くも明らかに。さくらは、介護ヘルパーとなってからAさん、Bさん、Cさんと3人の老人に最期まで付き添い、遺言書によってかなりの額の遺産を受け取ってきた。「じゅじゅ」と愛称で親しげに呼んでいた寿三郎はその中のひとり、“Dさん”に過ぎなかったのだ。その事実がバレても、「けっして遺産目当てではない。でも、もらえるものはもらう。いけませんか?」と主張したさくら。自分のずるさも認めつつ、彼女には自分なりの正義はあり、揺るぎない強さを見せる戸田恵梨香の表情が印象的だった。とはいえ、いくらでもリア充になれるルックスでなぜ後妻業のようなことをやっているのかという動機の疑問は残るので、もしかしたら、さくらは肉親や家族に恵まれない人で、老いた親の面倒を見ない子供たちに復讐心のようなものを抱いているのかもしれない。
寿三郎はさくらに「恋愛感情はなかったのか」と尋ね、「ごめんなさい」と謝られてしまって、あえなく失恋。子供たちはみな初めからそうだろうと分かっていただけに、しんどい。その場から逃げるように、父を風呂場に連れていった寿一は優しかったが、認知症の兆しがある寿三郎は「10分でフラれたことを忘れた」というのが、脚本の宮藤官九郎ならではのシニカルなオチで、笑ってしまった。父が失恋という一大事をすぐに忘れてしまうのは、子供たちから見れば悲しい。悲しいけれど、それを忘れて両思いと信じていられる本人はハッピーだ。となれば、子供たちもその“父がさくらに騙されているから幸福な状況”を受け入れるしかないのだ。
色ボケした父を演じる西田敏行は、若い女性に翻弄される悲喜こもごもの表情が絶品。もはや名人芸だ。宮藤官九郎×長瀬智也と組んだ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)の第1話「三枚起請」もそうだったし、強欲な大学病院院長・蛭間を演じた『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)でも常に美人秘書をはべらせていた。