原点に立ち返った新しい『スター・ウォーズ』 『マンダロリアン』が高評価を得た理由を解説

 ジョン・ファヴロー監督は、『ライオン・キング』で行った製作手法を、ここで応用している。スタジオ内をLEDディスプレイで囲み、そこに実物の大道具などを配置して、俳優に演技させるのだ。ゲームエンジンを利用したという、変化し続ける背景は、まさに最新の書き割りである。最新デジタル出演者たちによると、カメラの前で演じているとき、自分の周囲にあるものが映像なのか実物なのか、分からなくなっていくのだという。このシステムによって、これまでに達成できていなかったようなリアリティが実現した。まさにキャストや撮影スタッフらが、あたかも遠い星系にいて映画を作っているかのように、自然な撮影や演技が実現されているのだ。

 ハリウッドにおける現在のSFやアクション映画の大作は、CGなどによる“ポストプロダクション”によって、現実にはあり得ない非現実的な映像を作り出す。そんな業界をこれまで牽引してきたのが、ルーカスフィルムのVFXスタジオ、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)であり、その技術の結晶といえる『スター・ウォーズ』新3部作の存在であった。

 『スター・ウォーズ』の創造者であり、旧3部作の監督を務めたジョージ・ルーカスは、続3部作の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を鑑賞した際、その内容が旧三部作を懐かしむことに終始していた点を批判していた。それもそのはずで、ルーカスの『スター・ウォーズ』シリーズは、技術面において常に最新であり、時代の先端を行く作品だったはずなのだ。その意味で、本シリーズは旧3部作や新3部作ほどの革新性には及んでないものの、新しい技術を常に追い求める『スター・ウォーズ』の魂を受け継いでいるといえる。

 また、ファヴローとともに作品の中枢に関わるデイブ・フィローニは、ジョージ・ルーカスの信奉者でもある。彼は『スター・ウォーズ』の核となるものを、“父と子の愛情の物語”であると分析する。旧3部作のクライマックスでは、フォースのダークサイドに堕ちた父親と、彼を救おうとするルーク・スカイウォーカーが対峙することになる。新3部作では、ジェダイの堅苦しい掟とシスの邪悪な計画にアナキン・スカイウォーカーの心が引き裂かれたが、旧3部作のラストでは、ジェダイともシスの道とも異なる、ルークの個人的な愛情の力によって、ついにアナキンはフォースにバランスをもたらすことになる。だからこそ『スター・ウォーズ』の物語は素晴らしいのだと、フィローニは力説する。

 旧3部作のファンのなかには、新3部作を嫌う人も多く、J・J・エイブラムス監督含め、製作側にも新3部作をよく思っていないスタッフが少なくない。そのなかでフィローニは、旧3部作と新3部作の間にある重要なテーマを理解し、その核心部分を本作『マンダロリアン』に重ね合わせる。それは、マンダロリアンとベビーヨーダの間に育まれていく、擬似的な親子関係である。

 マンダロリアンの集団にも、ジェダイ同様の厳しい戒律と教義がある。だが、マンダロリアンはベビーヨーダのため、次第に教義に反するような行動をとり始める。そして、最終的に迷いを振り切ったルークと同じ境地にまで達するのである。その意味で本シリーズは、続3部作よりも数段高い地点で、『スター・ウォーズ』を描いているといえるのだ。

 そして本シリーズには、ファンを歓喜させるビッグサプライズも複数用意されている。ラストで明かされる、新しいシリーズのスタートには、ジョン・ファヴローやデイブ・フィローニらが、『マンダロリアン』から継続して参加することが決定している。彼らによる新しい『スター・ウォーズ』は、これからも続いていくのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『マンダロリアン』
ディズニープラスにて独占配信中
(c)2020 Lucasfilm Ltd.
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/mandalorian.html

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