メリル・ストリープのカリスマ的パフォーマンスも 『ザ・プロム』が示す社会の変わるべき方向性

 アメリカの高校生が卒業前に参加することができる、学校主催の伝統的なダンスイベント「プロム」。それをそのままタイトルとした映画『ザ・プロム』は、人気ミュージカルを基に豪華な俳優陣が出演する作品だ。

 製作・監督を務めたのは、高校の合唱部を題材とした大ヒットTVドラマ『glee/グリー』や、『アメリカン・ホラー・ストーリー』などのヒットシリーズを続々と世に送り出しているライアン・マーフィー。そこに、メリル・ストリープ 、ニコール・キッドマンなどのオスカー獲得俳優、ジェームズ・コーデン、キーガン=マイケル・キーなどのコメディ俳優、『ヘアスプレー』や『ジャージー・ボーイズ』の舞台にも出演したアンドリュー・ラネルズなど、歌って踊れる楽しいキャストを集結させている。

 しかし「プロム」という行事は、ときに保守的な文化の象徴として語られる場合もある。基本的に男子生徒と女子生徒のカップルが参加するプロムは、アメリカの青春映画でよく題材になってきたように、様々な恋愛模様や人間ドラマを誘発する磁場となる。男子生徒がサプライズ演出で事前にパートナーを誘う「プロムポーサル」と呼ばれる慣例が存在したり、学内のステータスを気にしてプロムに一緒に行きたくない恋人を振って他の相手を探したりなどの騒動が起きるのだ。

 プロム当日は、この日のためにドレスとコサージュで着飾り、丹念にヘアセットした女子を、タキシードを着た男子がリムジンで迎えに来たり、会場で一番“イケてる”男女生徒がカップルとは関係なく選出され、“キング&クイーン”としてダンスさせる伝統がある。つまり美貌やスタイルの備わった“男らしい”アメフト部のスポーツマンだったり、羨望を集める“女らしい”チアガール部の生徒たちなど、ミスコン、ミスターコンのように生徒間の人気に基づくステータスが高いとされる生徒たちが目立つことになるのだ。

 そうなると、こういった雰囲気にそぐわない生徒たちは排除されてしまうことになる。ゆえに、近年のアメリカのエンターテインメントが推し進める多様な価値観を擁護する視点から、この行事は“時代遅れ”だと見られる場合もある。

 基となったミュージカルに感銘を受けたというライアン・マーフィーは、前述したようにTVドラマ『glee/グリー』製作の中心人物だ。このシリーズは、田舎の保守的な高校の雰囲気のなかでは「ダサい」と思われがちな合唱部に集まった生徒たちが、歌とパフォーマンス、古今ヒットチューンによって輝いていく様子を描いている。そこでは、高圧的な教師との闘いや、ゲイであることを隠している部員の苦悩、障害を持った部員の葛藤や人種的な分断などの問題も含まれ、多様性を強く意識したものになっている。それは、ライアン・マーフィー自身ゲイであることをカミングアウトしていることも影響しているだろう。だから本作『ザ・プロム』は、あえて保守的だと見られる題材を選択したということになる。

 このような題材で現代的な価値観を描くにはどうするか。それは、題材の保守性を指摘し、それを打ち破るような内容にしてしまえばいい。本作では舞台版と同じく、登場人物であるインディアナ州の田舎の女子高校生エマ(ジョー・エレン・ペルマン)が、同性の恋人とプロムに行きたいのに“男女のペアしか入場できない”というルールを盾に学校側から拒否されるという構図が用意されている。

 そして、エマの窮状をSNSでたまたま知った、ブロードウェイミュージカルの俳優、ディーディー(メリル・ストリープ)、バリー(ジェームズ・コーデン)、アンジー(ニコール・キッドマン)、トレント(アンドリュー・ラネルズ)らは、この機を利用して自分たちの好感度をアップしようと算段を立てる。そんな不純な動機のディーディーらの善行は、エマや周囲の人々との出会いによって、やがて本当の人助けへと変わっていく。

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