ジブリ劇場上映ラインナップにおける異色作? 『ゲド戦記』にみる宮崎吾朗の役割

 吾朗はアニメ監督になる前は、公園や都市緑化の建設コンサルタントをしており、その経験を買われて、ジブリ美術館の総合デザインに参加した。そこでの役割は、宮崎駿の現実離れしたイメージやアイデアを、現実的な図面に落とし込んでいくという橋渡しする調整役だったという。

 つまり、天才作家である父親が提示する無理難題を現実化する補佐的役割こそ吾朗の仕事であり、それを粛々とこなせる実務能力こそが、吾朗の才能だったと言えるだろう。これは当時、ジブリに参加した外部のアニメ監督の多くが定着せずに去っていき、結局、吾朗と鈴木敏夫しか残っていない現状を考えると、より実感する。

 同時に建設コンサルトという観点から『ゲド戦記』を観返すと、終盤に登場するお城の描写に光るものを感じる。宮崎駿の作品は生命感に溢れており、人間だけでなくロボットやお城ですら生物のように見える。対して吾朗の作品は人間ですらぎこちなく、生物としての精細さに欠けるが、逆に建築物の描写になると、構図やアングルに「すべての辻褄が合っていることの気持ち良さ」のようなものが宿る。これは間違えなく、吾朗の作家性だ。

 『山賊の娘ローニャ』に続き、次回作の『アーヤと魔女』は3DCGアニメとなるが、彼の作家として論理的であろうとする気質はCGと相性がいいのだろう。3DCGで宮崎駿のような作品を作るという試みは、いまだ達成されたとは言い難いが『ゲド戦記』に感じた窮屈さと比べると、はるかに可能性を感じる。おそらくそれが達成された時に見える風景は、過去の宮崎駿の作品とは全く違うものになるはずだ。その意味でも、本当の宮崎吾朗作品に我々が出会うのは、これからなのかもしれない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『ゲド戦記』
公開中
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
原案:宮崎駿
脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子
監督:宮崎吾朗
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:寺嶋民哉
主題歌:手嶌葵
声の出演:岡田准一、手嶌 葵、田中裕子、香川照之、風吹ジュン、内藤剛志、倍賞美津子、夏川結衣、小林 薫、菅原文太
(c)2006 Studio Ghibli・NDHDMT

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