橋本愛が考える、コロナ以降の表現方法 「固定観念や現状を少しずつ変えていければ」
「俳優ではなくて、創作者にならなきゃダメ」
ーー役者として表現を伝えていく中で、今回のコロナ禍によって何か変化することはあるのでしょうか?
橋本:私は「絶対にない」と言い切れます。たとえば、東日本大震災のときは、惨状が明らかに可視化されたじゃないですか。そういう景色をカメラに映してしまえば、それだけで心をえぐられるものがあったけど、いま目に見えている景色は、数か月前と何も変わっていない。飲食店のシャッターが閉まっていたり、外に出る人が減っていたりというのはもちろんあるんですけど、それ以外に目に見えた変化は感じにくい。見た目が変わっていないのに中身が蝕まれている、まさに“ザ・ウイルス”という感じですよね。それはごくごく日常で、映画はそんな、外からは見えない他者の不幸や絶望に、クローズアップして光を当てて、それを見た私たちが世界や人生に向き合い想いを馳せるという構図は変わらないと思うんです。私自身は、今日もどこかで誰かが亡くなっているんだとか、いま誰かが経済的に困窮してるとか、いま誰かが絶望の淵に立っていて……というようなことを、本当に日々考えながら生きてきたんです。自分がいま生きていることの奇跡を普通に毎日感じていたので、今回のコロナによってそれが増幅したとか拡張したことも一切ないんです。変わったことといえば、そういうことがニュースなどで可視化される機会が増えたことぐらいで、いままで生きてきた感覚とまったく変わらないんですよね。毎日、毎秒が、生きてるだけで奇跡なのはいつも同じだから、その感覚は絶対に忘れたくないです。なので、役者としても、作品のテーマに寄り添って、役を生きるというこれまでとまったく変わらないです。
ーーこれまでと変わらずに、与えられた役を生きていくだけだと。
橋本:ただ、この期間に一つ思ったのは、この仕事ってやっぱり雇われ仕事だなと。それは前から思ってたんですけど、今回より強く思いました。やっぱり俳優って、発注がないと動けないわけで。今回も「あ、動けない」となって、それがすごく窮屈に感じてしまったので、俳優ではなくて、創作者にならなきゃダメだなと思いました。
ーー今後、作品づくりにも挑んでいくということですか?
橋本:そうです。いままでも監督をやるとか音楽をやるとか、いろいろ考えてはいたんです。ただ、ちょっとロースピードで進んでいたので、ギアを上げてやっていこうと。それは今回のことで踏ん切りがついたので、今後はそういうことにも挑戦していこうと思います。