興行会社ティ・ジョイに聞く、コロナ以降のシネコン運営 映画館の意義を模索する時代がやってくる

先行きは見えないが希望もある

ーー御社は配給事業として、ライブビューイングをはじめとしたODSも数多く送り出しています。この辺りへの影響も大きいでしょうか?

田代:ODSがやりづらくなるというのは、今後影響がどのように出てくるのか、そもそもODSのイベント会場がどこまで復活するのかという問題もありますし、ここ数年で市民権を得た応援上映といった企画上映は今後しばらくはやりにくくなるのではないかと思います。ライブビューイングでスポーツを観戦する際も声を出せなかったり、『プリキュア』の映画も作中でお子さんが声を出して応援するという構成がありますが、そういったキャラクターを応援するという新しく生まれた楽しみ方ができなくなって、デジタル化が進む前の15年前の映画館に戻るような感覚があります。

ーーシネコンにとって、ODSの占める割合というのはやはり大きいのでしょうか?

田代:とても大きいですね。具体的な数字は言えませんが、弊社自体でODSの配給を行っていることもあり、他社さんと比べても、全体の興行収入に占めるODSの割合は大きくなっています。なので、ライブ会場の復活というのは切に待たれます。

ーー映画館がシネコンになり、フィルムからデジタルへと変化し、積み上げてきたものが失われるというのは、今回のコロナ禍における新たな側面ですね。

田代:いままで築き上げてきたものが崩れてきて、15年前、20年前の状況に戻ってしまう。いままではお客様をどんどん集めて、声を上げても盛り上がってもいいよとしていたものがなくなるのかもしれない。私たちは、一度原点に戻り、良い環境で良い音響で、みんなで静かに鑑賞し、映画作品そのものを楽しみましょうと呼びかけ、できうる限りの安心安全をお届けする。その後、どの方向に進めばいいのかというのは、正直いまの段階ではわかりません。しかしながら、私たちの経営理念である「エンタテインメント・コンプレックス」を実現すべく、原点回帰して、コロナ時代でもお客様に選ばれるような劇場作りをしていきたいと思います。

柴﨑立哉:配信コンテンツのお話もありましたけど、いまは映画館自体の魅力はなんだったのか、改めてフォーカスを当てて考える時代なのかなと思っています。配信が存在せず、映画館だけだったときには考えてこなかった、「映画の魅力って何だろう?」というのを、ふと振り返って考える時期なのかなと思っています。

深田晃司監督と濱口竜介監督が発起人となった「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」

田村:これは希望的観測かもしれませんが、深田晃司監督や濱口竜介監督や井浦新さんがミニシアターを守ろうと動いてくださっています。そういった作り手の方々が、映画館でしかないもの、映画館で表現したいものがあると言ってくださるのが、すごくありがたいことです。もし、彼らが「自分たちは配信でやるので映画館でやる作品は撮らなくてもいい」となったときが一番恐ろしいんです。優れた表現者にそう言っていただいているということは、映画館なりの魅力に、人を引き寄せる何かがある。もしかしたら、今回のコロナを機に、作り手と映画館の関係性がより緊密になっていくかもしれません。作り手側からの「こういう風にできないですか?」という提案や、逆に私たちから「こういうようなことがしたいです」と意見交換ができるようになったら、それはそれで面白いと思います。課題は本当に山積みですが、希望に見えるのは、作り手も、映画館も、観客も、映画館で映画を観る行為をなくしちゃいけないと思っているところです。

【特集ページ】「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来

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