『G線上のあなたと私』に内在する“厳しい視線” 漫画原作ドラマの傑作を送り出す、安達奈緒子の作家性

安達奈緒子が持つ、厳しい視線

 安達は、2010年に月9(フジテレビ系月曜9時枠)で『大切なことはすべて君が教えてくれた』を執筆して以降、『リッチマン、プアウーマン』や『失恋ショコラティエ』といったフジテレビ系のドラマを主戦場としてきた。

 当時から安達の作品には、月9らしい華やかな枠組みのドラマの中に、生真面目な倫理観が刻印されていた。そこには明確な作家性が存在し「自分に嘘がつけない人なんだなぁ」と思っていた。安達の作家性は月9では見過ごされがちだったが、昨年、NHKで手掛けた産婦人科医院を舞台にしたドラマ『透明なゆりかご』においては高く評価され、それ以降、作家として一目置かれるようになる。

 今年は『きのう何食べた?』、『サギデカ』(NHK総合)、『G線上のあなたと私』と連続ドラマを三本も執筆。どれも高い評価を受けている。彼女の脚本には、他の人が見ないふりをしてやり過ごしている違和感を深く掘り下げていく厳しい視線がある。「これくらい、別にいいじゃないか」という甘えを安達は許さない。

 第6話。也映子は眞於に対して「(私とは)全然違いますよね」と言った後「クラスの最上位女子の匂いを感じています」「一生、周りの人から、ほとっけないって言われる人種」と言う。それに比べて自分は「ひどいことをサラっと言われる人種」で「誰からも気にしてもらえないってキツイです」と卑下する。そんな也映子に対し眞於は、

「だったら、そう言えばいいじゃないですか」
「気にしてもらいたいのなら待ってるだけじゃなくて、誰かのスペシャルになる努力をしなきゃダメじゃないですか?」
「自分からは何もアピールしないのに、『これでも弱ってる』『察してくれ』って、その方がわがままな気がしますけど」

と反論する。

『G線上のあなたと私』第6話より(c)TBS

 ドラマオリジナルの場面だが、自分を卑下しているようでいて「人種」という言葉を使って身勝手な偏見を押し付ける也映子の失礼な振る舞いに対し、眞於は淡々と反論する。

 このような人と人の価値観がぶつかり合うシーンには、安達の魅力がもっとも現れている。“誰も傷つかない優しい世界”を描くことが主流だった日本のテレビドラマにおいて、安達の作家性は負荷が強すぎた。そのため彼女の厳しさに耐えられない視聴者も多かったのだが『透明なゆりかご』以降、高く評価されている現状を見ていると、世の中自体が変わってきているのかもしれない。

 辛く苦しい時代だからこそ、安達の厳しさが求められているのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
火曜ドラマ『G線上のあなたと私』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:波瑠、中川大志、松下由樹、桜井ユキ、鈴木伸之、滝沢カレンほか
原作:いくえみ綾『G線上のあなたと私』コミックス全4巻(集英社マーガレットコミックス刊)
脚本:安達奈緒子
演出:金子文紀、竹村謙太郎、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gsenjou/

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