『いだてん』大東駿介×上白石萌歌が示した日本人の誇り 水泳日本代表が日系人にもたらしたもの
頭ひとつ出た鶴田を小池が追う。小池は後半で鶴田をぐんと抜こうとする。日本代表チームも実感放送も小池に声援を送る。そんな中、鶴田の脳裏には「どうせ小池が勝つ」「日本の金メダルは安泰。気楽なもんさ」と話す高石の姿が。
だが、険しい表情で泳ぐ鶴田から「負け」の2文字は微塵も感じられない。鶴田は決して「小池の練習台」ではない。日本代表選手の1人であり、そんな彼の目線の先にあるのは「勝利」だ。小池は鶴田を抜くことができない。声援に背中を押されるかのように鶴田は泳ぎ続ける。鶴田の結果は1着。鶴田は日本人で初めてのオリンピック連覇者となった。
ロサンゼルスオリンピックは終幕。ロサンゼルスを後にする一同の前に、1人の日系人(吉澤健)が現れた。バスの目の前に立ちふさがった彼は、総監督である政治を強く抱きしめて礼を言った。
「日本人だというだけでどんなに肩身の狭い思いをしたことか。私は今初めて大道の真ん中で大きな声で堂々と俺は日本人だと言うことができます」
吉澤演じる日系人は堂々たる声で「俺は日本人だ」と叫んだ。政治に反感を抱いていた日系二世のナオミ(織田梨沙)も「アイアムアジャパニーズアメリカン」と高らかに声をあげる。
番組公式Twitterによると、日系二世の少女の存在と日系人男性による感謝が、政治を東京オリンピック招致に向かわせるきっかけのひとつになったという。
しかし私たちは数年後に戦争が起こることを知っている。劇中では「満州事変」や「リットン調査団」などの単語が挟まれ、不穏な世界情勢が垣間見える。スポーツによってもたらされる歓喜だけでは満たされないのが、激動の時代を描く『いだてん』第二部の魅力と言えよう。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/