【ネタバレあり】『名探偵コナン 紺青の拳』“基本キャラ設定の封印”で見えること 作り手の狙いとは

 コナンは劇中の大半を何の変哲もない現地の少年“アーサー・ヒライ”として過ごす。もちろん観客にはそれがコナンであることは百も承知しているわけだが、おなじみのガジェットを持たずして事件に挑む(登場するのはここぞといった場面で登場するサッカーボールと麻酔銃ぐらいだっただろう)ことで、よりファンダメンタルに頭脳を駆使した探偵としての活躍を余儀無くされるわけだ。一方で“月下の奇術師”怪盗キッドは事件の重要な容疑者として殺人の濡れ衣を着せられたり、ライバルである京極真の台頭によって、華麗に盗みを働くことができないことで本来の彼らしさを制限されることと引き換えに、新一としてごく限られた周囲の人物を欺きながら過ごすことが可能になる。

 そのような基本設定の封じ込めによってスクリーン上にあらわになってくるのは、そのキャラクターの上辺にとらわれることのない人間としての性分であろう。劇場版ではお馴染みの、蘭を守ろうとするコナン(新一)の姿であったり、稀代の怪盗としてではなくコナンの良きライバルとしてで存在する怪盗キッド。また、京極真が400戦無敗という記録の持ち主でありながらも大事な試合を放棄したり、その自慢の拳を最後の最後まで封印してしまう姿からも、この3人の男たちを主軸にした本作が、従来の謎解きミステリー+大スペクタクルというコナン映画の“上辺”を突き破り、さらにその奥深くにある一人一人のキャラクター性を重視しようとしていることが見て取れる。

 もちろん、映画史全体を見渡せば長く続くシリーズ作品は数多あり、その中途において基礎的な部分に立ち返ってキャラクターの個性やバックグラウンドなどを冷静に描写し、定義し直すことも珍しくはない。しかしそのほとんどが、低迷期のテコ入れとして用いられてきただけに、現在の『名探偵コナン』シリーズのように年々その人気を高め、観客の多くが“いつも通り”を期待している中で行われるというのはかなりチャレンジングなことだ。これが劇場版としては23作目。あらかじめマンネリ化が訪れる前に、アニメーション作品において最も重要であるキャラクター関係に動きを与えるという策略は、よもや今年こそ興行収入100億円という大台へと導くという、作り手側の気概なのかもしれない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『名探偵コナン 紺青の拳』
全国東宝系にて現在公開中
出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:永岡智佳
脚本:大倉崇裕
音楽:大野克夫
(c)2019青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp/

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