『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』インタビュー

安田顕が語る、キャリアを積んだ今だからこその演技論 「色んな感情の起伏が出てくる」

 安田顕が主演を務める映画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』が、2月22日に公開される。原作者の宮川サトシが実際に体験した母との最期の日々から葬儀、そしてその後の生活の日々を描いたヒューマンドラマだ。衝撃的なタイトルとは裏腹に、「家族の死」というテーマにあたたかな視点とユーモアを加え、普遍的な感動をもたらす本作。安田顕に、本作へのアプローチを語ってもらった。

「シンプルな言葉の中に、人の心を動かすものが沢山ある」

ーー原作は、宮川サトシさんの実体験をもとにしたWEB漫画ですが、最初に読んだ時はどんな印象を受けましたか?

安田顕(以下安田):最初読ませていただいて、感動しました。笑ったし、涙しましたね。宮川さんの独特の視点や客観性だったり、なかなか出てこない発想が沢山あって心を打たれました。普通に体験を描いただけだと作品にはならないけど、そういう独特の感性をお持ちの方だったので、それを大森立嗣さんが脚本化して、大森さんなりの作品になっているのかなと思いました。

ーー実際に宮川さんとは会いましたか?

安田:葬儀場での撮影で、宮川さんと奥さんと娘さんと、宮川さんのお兄さんとお会いする機会がありました。お話はあまりできなかったんです。「どういう気持ちでしたか」とか質問しようかなと思いましたが、なんとなく聞かなくて。ただ宮川さんと奥さんと娘さんが手を繋ぎながら歩いていて、その後ろ姿を遠目に見た時に、「ああ、これで何も聞くことはないな」と、一本自分の中で芯が通ったと感じました。その姿が見れただけで、作品に対するモチベーションや取り組み方が自分の中で定まったというか。

ーー「身内の死」というテーマにあたたかな視点が加わっていますよね。

安田:「俺はこう思うんだよ」とストレートにやるより、宮川さんの言葉遣いや視点、ユーモアがあった方が伝わるんでしょうね。「死にはエネルギーがある。親の死は自分を前に進ませるんだ。そう思って俺は死んでいく」というシンプルな言葉の中に、人の心を動かすものが沢山あります。それは、生み出そうと思って生み出せるものじゃないから、僕らは気づかされる。そういうものがこの作品には流れている気がします。もちろん悲しいことですが、母が残してくれたものがなんなのか。思い出や母がしてくれたことは、自分の子どもができた時に照らし合わせることができるだろうし、遺された者が受け継ぎ伝えていく。この作品は決して悲しいだけじゃなく、微笑ましいところが多々あって、僕も完成した映画を見た時に、あたたかい気持ちになれたし、いつもより前向きな自分がいました。人に対して優しいまなざしを持てる自分がいたので、この作品にすごく感謝してます。

「その時点では信じられないけど、後から現実がジワジワと襲ってくる」

ーー母親役を演じられた倍賞美津子さんとの関係性はどのように築いていたんですか?

安田:極力そばに居るようにしました。もちろん、撮影の合間は役に集中する時もありますから、様子を見ながらですが。現場に入ってからは、そばにいて世間話をしたりして共に時間を過ごしていました。「ここはこういう役だから私はこうしたい」みたいな会話は、ほとんどありませんでしたね。

ーー母のガンを告げられた時の「がーん」が印象的でした。

安田:僕もわからないから想像でしかないんだけど、そういうこともあるのかなと思いました。衝撃的なことが起こった時、その時点では信じられないですが、後から現実というものがジワジワと襲ってくるじゃないですか? そういう重みがありますよね。

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