安定感のあった『わろてんか』、全てを覆した最終回の仕掛けを振り返る

 ところで、余談ではあるが、全体に濃淡の少ない作品の中で、突出してドラマチックで異彩を放っていた週もあった。それは落語家・団真(北村有起哉)と、団吾(波岡一喜)が登場した第10~11週。仲の良かった兄弟弟子が、師匠の後継者争いで弟弟子の団吾が選ばれたことで、団真は自信を喪失。師匠の娘・お夕(中村ゆり)と駆け落ちし、「団吾」の名を騙って地方巡業をしていたところ、てんに頼まれて落語の高座にあがる……という展開である。

 北村の繊細で脆く、駄々洩れする色気と、落語がうまくなっていく細やかな演技のリアリティには、目を奪われっぱなしだった。中村の薄幸そうで気丈な美しさにも強く惹きつけられた。

 さらに、この2週間だけが、アングルや「間」のとり方、映像に立体感、陰影があり、別のドラマのような強い印象を与えていた。後に知ったのだが、この2週は、『真田丸』の保坂慶太演出回だったそう。長期に渡って放送される朝ドラの場合(大河ドラマもそうだが)、演出家によって明らかに異質な回がときどきある。たとえば朝ドラ『ちゅらさん』の中で、セリフが一切なく、歌が数分間にわたって流れた「神回」を演出したのは、後に『龍馬伝』を手掛け、『るろうに剣心』などのヒット作を生む大友啓史監督だった。

 このように、本編のテイストから逸脱し、後々まで余韻の続く「異質な回」がときどき生まれるのは、朝ドラや大河ドラマのオマケ的楽しみのひとつ。できれば『わろてんか』では北村有起哉と波岡一喜の「団真・団吾」物語をスピンオフでやってくれないかなぁ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『わろてんか』
出演:葵わかな、松坂桃李、濱田岳、広瀬アリス、徳永えり、大野拓朗、前野朋哉、岡本玲、藤井隆、内場勝則、高橋一生、松尾諭、成田凌、水上京香ほか
作:吉田智子
音楽:横山克
平成29年10月2日(月)~平成30年3月31日(土)全151回(予定)
<総合>
(月~土)午前8時~8時15分/午後0時45分~1時[再]
<BSプレミアム>
(月~土)午前7時30分~7時45分/午後11時~11時15分[再]
(土)  午前9時30分~11時[1週間分]
写真提供=NHK
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/warotenka/

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