ジャッキー・チェンは西洋と東洋の価値観を結び付けるーー『カンフー・ヨガ』が優れた作品となった理由

 世紀のアクションスター、ジャッキー・チェン。これまでスクリーンのなかで、「限界に挑む危険なスタントアクション」、「オリエンタルなカンフーアクション」、「アイディア満載の喜劇的なアクション」など、多様な輝きを放ち、圧倒的な人気を勝ち得てきた。

 自ら危険な撮影に挑んできた、同じく世界的なアクションスターである、ジェット・リーやドニー・イェンらもそうであるように、長年の危険な撮影における蓄積した負傷や肉体の酷使によって、ジャッキーは満身創痍の状態にあるという。慢性的な身体の痛み、加齢。限界を悟ったジャッキーは、ロバート・デ・ニーロのような演技派への転向を目指しているというが、やはり観客の多くが期待してしまうのはアクションである。本人のサービス精神もあって、声優を務めた『レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー』の短い実写パートでの出演ですら、軽くアクションを披露しているほどだ。

 そういったなかで、ジャッキーは段階的にアクションの総量を減らしたり、代名詞といえるエクストリームなスタントアクションを若手の俳優に任せるなど、負担を減らす工夫を重ねることで、観客の要望と折り合いをつけている状況である。そんななか、中国・インド合作映画である本作『カンフー・ヨガ』は、近年のジャッキー作品のなかでも肩の力を抜き、絶妙な軽さのストーリーとともに見事に娯楽表現を結実させている。おとそ気分で正月に観るにはもってこいのおおらかさを持った、しかし侮れない深さもある作品となった。ここでは、その内容を追いながら、本作が優れた作品となった理由を考えていきたい。

 考えてみれば、ハリウッド俳優のアクションは、トム・クルーズなど一部の例外を除き、危険な撮影はスタントマンが代わりに務めることになっているし、CGなどのテクノロジーでスペクタクルを生み出す手法が確立している。その基準でいえば、いまだ自らカンフーなどをこなすジャッキー・チェンは、現役バリバリのアクション俳優だと言っていいだろう。比較対象となる過去のジャッキー・チェンが、あまりにも超人的でおそれ知らずだったということだ。本作は、無理をしない範囲のアクションにとどめていることが、むしろ余裕を感じさせ、ある意味でジェームズ・ボンドのようなスタイリッシュなかっこ良さがある。共演者に「若い!」とセリフで言わせているのもご愛敬だ。

 本作の物語は、アクションシーンの撮影中にジャッキーの頭蓋骨が陥没するという大事故が起きた『サンダーアーム/龍兄虎弟』を含めた「アジアの鷹」シリーズを彷彿とさせる、「宝探し映画」だ。ジャッキー演じる考古学者ジャックが、世界を駆け巡り伝説の財宝を探すという基本設定は、『インディ・ジョーンズ』そのものだが、劇中では「『インディ・ジョーンズ』みたい!」などと、身も蓋もない禁断のセリフをジャッキー自身が吐くように、お気楽なムードが全編に流れている。

 ドバイで高級スポーツカーがデッドヒートを繰り広げる『ワイルド・スピード』風のカーアクションでは、後部座席に荒ぶるライオンを乗せながら敵の車を追跡せねばならなくなるという、ある意味『ワイルド・スピード』を軽く超越したアイディアを見せる。高景気に浮かれる中国の資産家とアラブ人の王族とのバブリーなオークション対決、インドの地下宮殿でのアドベンチャーやカンフー対決など、とにかく盛りだくさんに、手を変え品を変え場所を変えて冒険活劇が描かれていく。

 目を惹くのは、ファッションモデル並みに美しく、さらに運動神経も突出している出演者たちだ。シンガー・ソングライターでもあるアーリフ・リー。日本でも人気のあるアイドルグループ「EXO」のメンバー、レイ。中国の著名なヨガのインストラクター、ムチミヤ。そしてインドの側も、プロデューサーとしても知られるソーヌー・スード、さらにディシャ・パタニやアミラ・ダスツールが、それぞれアクションの見せ場をこなす。

 ハリウッドでは、ステレオタイプな美男美女で主要なキャストを埋めていく作品は減少傾向にあるが、本作は「そんなもの知るか」という態度で美形ばかりをそろえており、スクリーンから「美のオーラ」の圧迫を感じてしまう。社会の進歩的な流れに迎合しない姿勢と、美男美女が見たい観客の欲望には迎合しまくっている本作の態度は、いっそすがすがしくすらある。

 氷雪地帯でオオカミの縄張りに侵入してしまったジャックたち一行が、オオカミを撃退するために、二人一組で軽く組手(散打)を見せて威圧するという作戦をとるシーンは華麗だ。本作ではいろいろとバブリーな拝金主義的描写を見せられるが、中国武術の歴史を礎とした技術の応酬には、うっとりさせられてしまう。だがその後、オオカミたちは結局のところ襲ってきたので、全員で雪玉を投げて撃退する展開になるというのはほほえましい。

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