PRODUCERS' THINKING
『僕たちがやりました』劇伴はなぜ耳に残る? origami PRODUCTIONS 対馬芳昭氏インタビュー
「堅実に続けることでしか存在できない」
ーーお話を伺っていると、対馬さんは良い意味であまり野心がないというか、堅実に仕事をしてきた印象を受けます。いつか大ヒットを飛ばして、大きく儲けたいとは考えていないんですか?
対馬:そもそもお金のことを考えたら、絶対にこの仕事をやっていないと思います。だって、いっぱい魚を釣りたかったら、最初からいっぱい魚がいるところに行くじゃないですか。もちろん、面白いことをするには資金が必要だし、みんな食べていかなければいけないから、ちゃんと稼ぐ必要はあるんですけれど、それが最終的な目的ではないです。それよりも、メジャーではあまり売れないけれど良質な音楽をやり続けることや、本当に実力のあるミュージシャンが埋もれないようにすることに、達成感や喜びを感じています。善人ぶるつもりはないですが、いままで無名だったミュージシャンがちょっとでも有名になったり、海外から反響があったりすると、やっぱり快感ですね。
ーー大きく稼ぐよりも、自分たちが好きな音楽を作り続ける継続性の方が大事だと。
対馬:うちは10年の間にヒット曲と呼べる作品がなくても成立しているチームなんです。そこが良い音楽をやり続けるコツでもあると思います。なまじヒット曲を出してすぐに消費されてしまうと、“自分たちがやりたい良い曲を作ろう”じゃなくて、“ヒットする曲を作ろう”となってしまうじゃないですか。メジャーの音楽シーンでは、“ヒットする曲を作ろう”と発想する方が普通で、もちろんそれを否定するつもりもないのですが、僕らはそれとは真逆を行こうと思っています。それに、僕らの場合はど真ん中のジャパニーズ・ヒップホップではないから、残念ですが『フリースタイルダンジョン』みたいなムーブメントとは無縁だし、ロックバンドみたいにライブ会場でTシャツを売ったり、レゲエみたいにタオルを売ったりもできない。だから、堅実に続けることでしか存在できないなと。
ーーただ、近しい音楽性のところでいうと、最近はSuchmosがブレイクしましたよね。
対馬:あのスタイルでまさかあれほど大ヒットするバンドが出てくるとは夢にも思いませんでした。ブラックミュージックのバンドで、あんなことが起こるんだって、未だに驚いていますね(笑)。でも、僕はこのシーンを長年見てきて、あれは狙ってできるものでもないなと。これまでにどれほどたくさんのバンドがいたのかを考えると、可能性は限りなくゼロに近い。だから、ああいうヒットを狙っていくと考えると、本当にしんどくなってしまう。もちろんブレイクすることは良いことですけれど、そうじゃなくてもやっていけるのをスタンダードにしていかないと。
人に対して礼を尽くすことは大事
ーー対馬さんが今の仕事を継続するうえで一番大事にしていることは?
対馬:人との縁ですね。うちのレーベルが5周年の時に、全国5カ所を巡るフリーライブをやったことがあるんですよ。5年経った時に、こうして続けてこれたのは、やっぱりCDを買ってくれるファンの方々や、応援してくれる関係者のおかげだって強く感じて、しっかり還元していこうと思ったんですね。それで、バンドメンバー15〜16人で移動して、東京公演は100万円くらい出してリキッドルームを押さえたところ、結局、赤字マイナス700万円くらいになってしまいました(笑)。でも、その後もCDを買ってもらったり、様々な関係者の方にお仕事をいただいたおかげで、ちゃんと盛り返すことができました。今、うちはちょうど10周年なんですけれど、その時よりもさらに、皆さんに助けられているなと感じています。高根さんも、僕らが何者だかわからない時からサポートしてくれて、こうして取材にまで来てくれたじゃないですか。お声がけいただいた時は、本当に嬉しかったです。やっぱり、なんだかんだで縁は続いていくものだし、そういう部分を大事にしていると、いつか意外な形で返ってきたりします。それの繰り返しなので、人に対して礼を尽くすことは大事かなと。僕らのようなインディーズ・レーベルは、外から「どうせハッパばっかり吸ってるんでしょう?」みたいなイメージを持たれがちだからこそ、むしろ大きな会社で働いている人以上に、ちゃんとしていかなければいけないと思っています(笑)。
ーー対馬さんの職業は、サウンドプロデューサーではないけれど、全般的な意味ではプロデュース業でもあります。改めて、ご自身のプロデュース論について教えてください。
対馬:僕は30代後半ぐらいになってから、はじめて本当の意味で仕事の全体像が見えてきたんです。業界のこともよくわかったし、お金の流れとか、人との付き合い方とか、クリエイティブの方向性とか、ようやく全体を通して俯瞰できるようになりました。そうなると、まだ全体像が見えていない人のことがわかるようになってきます。この人はこの視点がないなとか、実はこの人にはこういう才能があるなとか、この人は責任感があるから任せても大丈夫だなとか。そうなった時に、僕はなにかを専門的にやることを捨てました。なぜなら、今のチームで全体を俯瞰できるのは僕しかいないからです。適材適所でチームのメンバーに仕事をしてもらい、いかにして力を発揮してもらうか、それを考えていくのが、プロデュースするうえで大事だと思います。もちろん、なにかがあった時は、僕が責任を取ります。
ーーまさに理想の管理職というイメージです(笑)。では最後に、今後の目標を教えてください。
対馬:売れ線じゃない好きな音楽をやっていても、結構みんなで楽しくやって食べていくことはできるんだよということを、ちゃんと若い人に見せていきたいです。僕は小学生の時からずっと音楽と一緒に生活をしてきて、こう言ってしまうと陳腐かもしれないけれど、それですごく救われたんですね。だけど、ここ数年は環境の変化もあって、音楽ビジネスを成り立たせるのが難しくなっています。かといって、ここで火を消すわけにはいきません。なぜなら、僕が子どもの頃にマイケル・ジャクソンの歌声を聴くことができたのは、レコード会社で働く人々がしっかり頑張ったからで、そのバトンはすでに受け取っているからです。今、レコード会社の景気はかつてほどの勢いを失っていますけれど、「もう終わりかもね」って言って次の世代にバトンを渡したくありません。引退するときに、「ちょっと上向きにしておいたよ、あとは頑張ってね」って言ってバトンを渡したい。次の世代にこの仕事を繋げていくためにも、あと20年くらいの間に、微力ながら音楽シーンをどうにか整備して、もう一度、大きな産業として成り立つようにしたいです。業界の構造が変わりつつある今は、むしろ大きなチャンスの時代でもありますから。
(構成=松田広宣)
■高根順次
1973年生まれ。大学卒業後、AVEXD.D.(現・AvexGroup)入社。半年間のAD生活で社会の洗礼を受けた後、スペースシャワーTVへ転職。フリーペーパー『タダダー!』の立ち上げに始まり、『スペチャ!』『爆裂★エレキングダム』他、数多くの番組をプロデュース。現在はライブ動画をウェブ上にアーカイブするプロジェクト『DAX』やヒップホップ番組『BLACKFILE』を担当。一方で『フラッシュバックメモリーズ 3D』をきっかけに映画製作に乗り出し、以後、『劇場版 BiSキャノンボール2014』、『私たちのハァハァ』、『劇場版 BiS誕生の詩』,『WHOKiLLEDIDOL? SiS消滅の詩』と、2017年春までに4本のプロデュース作を劇場公開している。2017年4月に『PRODUCERS' THINKING』を上梓。最新作『劇場版アイドルキャノンボール2017』は2018年2月全国公開。http://idol-cannon.jp/
■放送情報
『僕たちがやりました』
毎週火曜21:00~21:54
出演:窪田正孝、永野芽郁、新田真剣佑、間宮祥太朗、葉山奨之、今野浩喜、川栄李奈、板尾創路、水川あさみ、三浦翔平、古田新太ほか
原作:『僕たちがやりました』原作:金城宗幸/漫画:荒木光(講談社「ヤングマガジン」刊)
脚本:徳永友一
主題歌:DISH//「僕たちがやりました」
OP曲:Mrs. GREEN APPLE「WanteD! WanteD!」
演出:新城毅彦、瑠東東一郎
プロデュース:米田孝(カンテレ)、平部隆明(ホリプロ)白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/bokuyari/index.html
番組公式Twitter:https://twitter.com/bokuyari_ktv