PRODUCERS' THINKING

高杉真宙らキャストとの共同生活も……『逆光の頃』Pが語る、“粘り”の映画作り

最終的にはアメリカで忍者映画を撮りたい

――マイケルギオンでは、CMの制作や海外のちょっとした動画の制作もしていますね。そうした受注仕事の利益を映画製作費に充てているのですか?

原田:そうですね、制作プロダクションとしての機能を持ちつつ、企画制作もやっていくスタイルです。海外の仕事は、フリーの時のつながりや、海外映画祭への出展を通じて知り合ったプロデューサーやディレクターから紹介してもらっています。『逆光の頃』は、そうして制作した動画の利益も充てていますが、東映ビデオがほとんど出していますね。『ももいろそらを』の時は、僕と小林監督とでお金を出し合っていたので、そういう意味では段々とステップアップしています。でも、今回みたいにスポンサーが付くのはなかなかないことで。『ぼんとリンちゃん』の時は、『四季報』に載っていた会社に片っ端から電話しました。たぶん、1000社くらい当たっています(笑)。でも、そうすると20社くらいは「DVDを送ってくれ」って興味を持ってくれて。1000社も当たると、どういう会社が興味を持ってくれるのかが段々と見えてきます。まあ、結局その電話ではお金に繋がらなかったんですけれど、何事もやってみないとわからないことがありますから。電話なんて一回10円とか20円とか、そんなものなので、得られる情報や経験と比べたら安いですよ。

――製作出資を募る為に1000件も電話をする人、初めて会いました(笑)。原田さんのとにかくやってみる、という姿勢はすごいですね。

原田:それも見習い時代に覚えたことですね。藤井さんの隣で働いていた頃に、高校のロケ場所を探すことになって、高校受験案内の本をポンって渡されたんですよ。それで、2000校くらい電話しました。初日は電話の仕方もヘタクソなんですけれど、かけまくっている内に段々要領がわかってくる。腐らずにやっていたら、最終的に20校くらいがOKを出してくれて、とある高校で実現しました。その後、学校の教頭先生から「協力してよかった」って手紙をもらって、それは嬉しかったですね。

――小林監督と原田さんは、今後もインディペンデント映画でやっていくのですか?

原田:なにをもってインディペンデント映画と呼ぶかにもよるかなと。小林監督が参加した、ロバート・レッドフォードのミーティングでは、「ハリウッド以外は全部インディペンデントだ」ということを言っていたそうです。だから、日本の映画は全部、インディペンデントといえばインディペンデントなので、そういう意味では今のままでも別に良いのかなと思っています。もちろん、予算の規模感は作品によってそれぞれですけれど、コーエン兄弟だってインディペンデントといえますからね。製作委員会がつけば、いろんな意見を調整しなければいけなくなってしまうのかもしれませんが、その辺はまだよくわかりません。ただ、最終的にはアメリカで忍者映画を撮りたい、という目標はありますね。それって、馬鹿馬鹿しくて面白いじゃないですか(笑)。それに、小林監督は人の演出が本当にうまいので、アクション映画でもホラー映画でも、ちゃんとその長所は出せると思うんですよ。10億とか預けてくれれば、きっと本当に面白いアクション映画が作れるんじゃないかな。ただ、国内で10億集めるのは、よほどのことがないと無理ですよね(笑)。

――もう1回人生をやり直せるとしたら、またプロデューサーをやりますか?

原田:やると思いますね、面白いですから。映画のスタッフも、キャストやマネージャーも、映画に携わっている人は魅力的な方が多いです。海外にも面白い人がいっぱいいますしね。たとえばカメラマンのエマニュエル・ルベツキとか、アカデミー賞の撮影賞を三回連続で取ったりしているわけだから、もうやらなくても良いと思んですけれど、それでも挑戦し続けているわけじゃないですか。この世界にはそういう姿勢の人が多くて、だからこそやめられないんです。それに、僕みたいに何者でもなくても、そういう人を説得して集めれば、面白い映画は作れます。

――その辺の魅力は、とてもよくわかります。

(c)タナカカツキ/講談社・2017東映ビデオ/マイケルギオン (c)原作/タナカカツキ「逆光の頃」(講談社「モーニングKC」所載)

原田:昔から憧れていた人に直接会って、一緒に仕事ができたりするわけだから、最高ですよね。たとえば今回の『逆光の頃』は、タナカカツキさんの原作ですけれど、実は小林監督にとって高校時代の憧れの漫画家なんですよ。普通にサラリーマンをやっていたら、そういう出会いはなかなかありません。あとは、単純に僕自身が小林監督の新作を観たいと思っていて、一番の観客でもあると思っているんです。だから、その魅力をどう人に伝えていくか。それこそが、プロデューサーの一番の仕事で、醍醐味でもありますね。

(構成=松田広宣)

■高根順次
1973年生まれ。大学卒業後、AVEXD.D.(現・AvexGroup)入社。半年間のAD生活で社会の洗礼を受けた後、スペースシャワーTVへ転職。フリーペーパー『タダダー!』の立ち上げに始まり、『スペチャ!』『爆裂★エレキングダム』他、数多くの番組をプロデュース。現在はライブ動画をウェブ上にアーカイブするプロジェクト『DAX』やヒップホップ番組『BLACKFILE』を担当。一方で『フラッシュバックメモリーズ 3D』をきっかけに映画製作に乗り出し、以後、『劇場版 BiSキャノンボール2014』、『私たちのハァハァ』、『劇場版 BiS誕生の詩』,『WHOKiLLEDIDOL? SiS消滅の詩』と、2017年春までに4本のプロデュース作を劇場公開している。2017年4月に『PRODUCERS' THINKING』を上梓。


■公開情報
『逆光の頃』
全国順次公開中
脚本・監督:小林啓一
原作:タナカカツキ「逆光の頃」(講談社「モーニングKC」所載)
出演:高杉真宙、葵わかな、清水尋也、佐津川愛美、桃月庵白酒
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(c)タナカカツキ/講談社・2017東映ビデオ/マイケルギオン (c)原作/タナカカツキ「逆光の頃」(講談社「モーニングKC」所載)
公式サイト:gyakko.com

関連記事