神山健治監督『ひるね姫』はアニメ業界の未来を示唆するーー新たな作風に隠されたメッセージ

 本作に登場する自動車会社、そして機械の王国の状況が示唆しているものは、このようなアニメーション製作における日本の状況の過酷さである。そしてその産業は、やがて滅びる運命にあることも暗示されている。リアリティのある表現と、比較的作業効率に優れる、フルCG製作へ移行したアメリカのアニメーション大手スタジオは、このような問題を解決しながら、次々と世界的なヒット作を安定的に生み出している。このように変革期を迎えた世界的な趨勢のなかで、日本のアニメーション技術が、全く変化の波から離脱してしまえば、時代の先端から距離をとった伝統芸能のようになっていくかもしれない。

 

 本作で最終的に成し遂げられる奇跡は、従来とは異なる先進的な技術革新と、人の手による職人的技術との融合によってなされる。頑固だが人情のある自動車会社の社長は、新しい技術によって、ものづくりの基盤や精神が失われることをおそれるが、新技術を支えるものも、やはり人の手である。アメリカで奇跡的な成功をなしとげした日本のアニメーションの代表格である『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』も、やはりそのような精神で作られていた。その意味で、本作は精神的なレベルにおいては、やはり押井監督の精神を引き継いでいるといえるだろう。

 本作では、絵コンテからレイアウト、作画、仕上げに至る、アニメーション製作の工程を、タブレットを使いデジタル化することで、全く紙を使わないという新しい試みが採用されている。だが作画自体は、やはり人の手による職人的な技術である。本作が表現するのは、このように新しい技術をおそれずにとり入れることと、そこに人間の心を最大限に乗せていくということが重要だという、これからの日本のアニメ業界への提言でもある。そして、いつかデジタルのみで全ての作品が作られることになる未来が来たとしても、そこに人の心を込めることができるという希望を託しているように感じられるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
2017年3月18日(土)全国ロードショー
原作・脚本・監督:神山健治
キャスト:高畑充希、満島真之介、古田新太、釘宮理恵、前野朋哉、高橋英樹、江口洋介ほか
音楽:下村陽子
キャラクター原案:森川聡子
作画監督:佐々木敦子、黄瀬和哉
制作:シグナル・エムディ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 ひるね姫製作委員会
公式サイト:http://www.hirunehime.jp

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