『カルテット』宮藤官九郎の夫役に賛否両論 男と女はなぜすれ違うのか?

 いよいよ第2章が幕を開け、サスペンスの色が濃くなってきた火曜ドラマ『カルテット』(TBS)。2月21日の放送の第6話では、巻真紀(松たか子)の夫・巻幹生(宮藤官九郎)が登場し、なぜ彼が真紀の元を離れて失踪したのか、夫婦の気持ちがすれ違うまでの顛末が描かれた。ネット上では、幹生の行動や振る舞いに対し、賛否両論が巻き起こっている。

 第5話のラスト、世吹すずめ(満島ひかり)と駅前で偶然にぶつかった男性が、彼女たちが組んでいるカルテットドーナツホールのチラシを持っていたこと、苗字が“巻”だったことから、すずめは真紀の探している夫であることを確信。メンバーたちが共同生活を営む別荘へと連れていく。幹生は挙動不審で身なりも汚れ、左手には生々しく血が滲んだ包帯を巻いている。足元には蛍光塗料が付いていて、その靴を見た配達員が「カラーボールを投げられたの?」と口にしたことから、すずめは幹生がなんらかの犯罪を起こしたと疑う。問い詰めると、金に困ってコンビニ強盗をしたことがわかり、すずめは警察を呼ぼうとするのだが、幹生は真紀との間になにがあったのかを話し始める。

 真紀と幹生は、とある公演の後にたまたまタクシーで乗り合わせたことから知り合い、交際を開始した。広告代理店勤務の幹生は、その趣味から察するに、本や映画などカルチャー全般に関心の高い人物なのだろう。ヴァイオリン奏者でミステリアスな雰囲気を持つ真紀に、一目惚れに近い感情を抱き、幾度かのデートを重ねて仲を深めた。一方の真紀も、幹生と過ごす時間に穏やかな感情を抱き、自身の好意に気づく。ふたりが結婚するまで、さほど時間はかからなかった。

 何一つ不自由のない新婚生活に思えたが、一緒に過ごす時間が長くなるに連れ、徐々に気持ちのすれ違いが生まれる。たとえば「唐揚げにレモンを絞る」問題。幹生はレモン嫌いだったのだが、真紀は良かれと思って彼の同意を得ずに絞る。しかし幹生は、そのことには口出しせずに「美味しい」と唐揚げを頬張る。映画の趣味にしてもそうだ。ある日、幹生が「生涯ベスト」と勧める作品を一緒に鑑賞するのだが、真紀は「この人が悪者?」と問いかけ、幹生は「悪者とか、そういうんじゃないだよね」とかみ合わない。休日に楽しむコーヒー、普段聴く音楽、日常会話……なにもかもが幹生の思い描くものとは異なり、「この人も普通の人なんだ」と、真紀に抱いていた感情が自らの勝手な幻想でしかないことに気づかされる。一方の真紀は、専業主婦として幹生を支えることに幸せを感じ、なるべく喜んでもらおうと努めて明るく振る舞うのだが、その気持ちは空回りする。そしてある日、幹生が居酒屋でかつての同僚相手に、真紀のことを「愛しているけれど、好きじゃない」と話しているのを聞いてしまう。どうにかして溝を埋めなければと思うふたりだったが、面と向かって話すことはできず、幹生は突然、失踪してしまうのだった。

 ふたりの間に生じた些細なすれ違いは、交際をする中で誰しもが経験しうるものだろう。他人同士が共に生活をするのだから、趣味、習慣、生活感に違いが生じるのは当然だ。だが、幹生は相手に対して抱いていた幻想に捉われるあまり、恋人の頃のように“好き”でいることができなくなってしまった。しかも、自分の欲求を抑えて、相手の気に入らない部分についても何も言わず受け入れていたため、我慢の限界に達してしまった。相手を傷つけまいとするあまりに、嘘をつき続けてきたことの代償だ。結局のところ、それは自分が嫌われたくないという、身勝手な気持ちが先に立っていただけなのかもしれない。多くの視聴者が彼に対し、「ちゃんと言葉で伝えてくれないとわからない」「幹生は自分が可愛いだけ」といったネガティブな印象を持ったのは、そのためだろう。一方で、彼の行動に我が身を振り返り、理解を示した視聴者も少なくなかったようだ。特に、はじめてのプレゼントだった詩集を真紀が鍋敷きにしてしまったことについては、彼女に悪気はなかったとはいえ、怒りを覚えるのももっともだという意見もあった。

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