年末企画:池田敏の「2016年 年間ベストドラマTOP5」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2016年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマの三つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は2016年に日本初上陸した作品(シーズンものは、リミテッド・シリーズのみ)の中から、執筆者が独自の観点で5本をセレクト。第十回の選者は、リアルサウンド映画部では初登場。『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)を今年8月に上梓した海外ドラマ評論家の池田敏。(編集部)

1.『ゲットダウン』(Netflix)
2.『高い城の男』(Amazonプライム・ビデオ)
3.『弁護士ビリー・マクブライド』(Amazonプライム・ビデオ)
4.『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』(スターチャンネル)
5.『FARGO/ファーゴ(シーズン2)』(スターチャンネルほか)

 DVD・ブルーレイやBS放送、CS放送に加え、2015年からはNetflixやHuluなどの動画配信サービスが台頭し、すべて見切れないというほど海外ドラマが上陸するようになった現在。特にアメリカでは製作本数が急増し、2016年は(1)地上波ネットワーク/145本、(2)ケーブル(日本でいうCS)/217本、(3)動画配信サービス/93本と、計455本のドラマが作られた(旧作の新シーズンも込みと思われるが)。中でも動画配信サービスのオリジナルドラマは1年間で45%も増加。すると、おのずと質も向上するというのはご理解いただけるだろう。そんな2016年に上梓した拙著『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)などを参考にして探していただければ、どんな人でもお気に入りの海外ドラマが見つかる、夢の時代が訪れている。

第1位『ゲットダウン』は、バズ・ラーマン監督が製作総指揮し、1977年のニューヨーク・ブロンクスを舞台にした青春ミュージカルドラマ。保険金目的の放火が相次いで廃墟だらけのブロンクスで若者たちがヒップホップを生み出すという、“時代のうねり”をクロニクルとして成立させた奇跡。1967年生まれの筆者が、一番行きたかった時代の一番行きかった場所をディテール豊かに再現。一周回って今の若者の目にも新鮮に映るのではないか。

第2位『高い城の男』は、続編『~2049』も話題の映画『ブレードランナー』の原作者フィリップ・K・ディックの同名小説のドラマ化。第二次世界大戦でワシントンDCに原爆が落とされ、アメリカの東海岸をナチスドイツ、西海岸を大日本帝国が統治する1960年代を描いた歴史改変SFサスペンス。TV向けドラマとしては不可能に近い題材をあえて選んだであろう、米国Amazonの知略に唸った。

第3位『弁護士ビリー・マクブライド』は、弁護士出身の名クリエイター、デイヴィッド・E・ケリーが、やはり弁護士出身の脚本家ジョナサン・シャピロと組んだ、秀逸なリーガル・サスペンス。ドラマ版『FARGO/ファーゴ』シーズン1での怪演が記憶に新しい実力派男優ビリー・ボブ・ソーントンを主演に迎え、はみだし弁護士VS巨大権力の死闘を緩急たっぷりに描写。やっぱりアメリカはこうじゃなきゃと痛感した。

第4位『アメリカン・クライム・ストーリー~』は、“世紀の事件”となったO・J・シンプソン事件を、徹底的にリアルに再現。まだ20年ちょっと前とそんなに古くない事件を題材にしてしまう、大胆不敵な姿勢そのものが大いに刺激的だった。

今回の選出にあたって編集部からは「今年初めて上陸したドラマに限定」といわれたが、シーズンによって舞台などが一変するドラマ(今後増えるはず)はありとのことで、第5位には『FARGO/ファーゴ』のシーズン2を。シーズン1はコーエン兄弟の映画を下敷きにしたが、シーズン2はほぼオリジナルなのに、さらにクレイジーに(かつてアイドルだったキルスティン・ダンストも狂演)、さらにグロテスクに、アメリカの田舎の悪夢空間は進化。コーエン兄弟が製作総指揮に名を連ね続けるのも納得の高品質だ。

■池田敏(いけだ・さとし)
海外ドラマ評論家。「映画秘宝」「月刊SCREEN」などの雑誌や、BS・CS各局のサイトに寄稿。海外ドラマ歴37年の集大成となる新書『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)を2016年8月に上梓。

■作品情報
『ゲットダウン』
Netflixで配信中
原作・制作=バズ・ラーマン、スティーヴン・アドリー=ギアギス
出演=ジャスティス・スミス、シャメイク・ムーア、ヘリゼン・グアルディオラ、ジェイデン・スミスほか
視聴はこちらから→https://www.netflix.com

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